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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2021年度

通貨の未来:デジタル通貨に関する学際的研究

大阪国際大学経営経済学部 専任講師
川波 竜三

1.研究目的・進捗状況
 本研究の目的は、デジタル通貨の誕生により将来発生しうる通貨制度の変容に関するシナリオにおいて、経済主体と政治主体の行動がどのような影響を相互に与えうるのか考察することである。具体的には、デジタル通貨の普及がドル覇権及び国家間の権力関係に与える影響、通貨をめぐる国際金融市場と国家の関係に与える影響等、を多面的に明らかにすることを目指している。
 本研究課題を分析するにあたり、年度内に対面で3回の研究会を実施し、9つの報告がなされた。その内容は多岐にわたるが、国家間関係に焦点をあてた政治学的分析(経済安全保障、国際政治経済学)に基づく報告、マクロ経済をベースとした経済学的分析に基づく報告、地域通貨とデジタル通貨の関係に焦点を当てた報告(シミュレーション分析等)、詳細な情報技術(ブロックチェーン技術等)の内容に基づく報告に大別される。研究は緒に就いたばかりであり分析の深ぼりが今後必要ではあるが、次節で述べるような新たな知見を得ることが出来た。

2.成果及び研究で得られた知見
 各報告においてそれぞれ個別に新たな知見を得ることが出来たものの、紙幅の関係上すべてを記すことは出来ない。そのため今後本研究を進める上でも特に重要な新たな知見をここでは3点あげておく。1点目は、通貨の流通を分析する際には、通貨そのもののアイデンティティやそれに対する認知といった社会学的分析視点も政治学・経済学的視点に加え重要であるという点である。通貨がデジタル化することにより、暗号資産や中央銀行デジタル通貨など新たな通貨が市場に流通する可能性がある。しかし、その通貨が市場に受け入れられ流通するかどうかは、国家が定めた制度やルール、流通のコストベネフィットだけではなく、通貨そのものに対するアイデンティティや認知も大きく影響する。2点目は、人民元のデジタル化の過程で生み出されるシステムの重要性である。人民元のデジタル化がその国際化を推し進めるためのトリガーとなる可能性は低い。しかし、中国で開発された通貨をデジタル化させるためのシステムを他国が受け入れる可能性は十分にあり、今後の分析課題として重要であると考えられる。3点目は、ブロックチェーンを含めた情報技術の発展の重要性についてである。政治学者や経済学者は見落としがちであるが、情報技術は日々進化するため、本研究を進める上ではその情報を常にアップデートし、政治経済への影響も鑑みる必要がある。

3.今後の課題
 研究目的を達成するために明らかにすべき論点や研究の方向性は、この一年間の研究である程度見出すことができた。今後は各研究を相互参照及び補完しながら、ひとつのまとまりのある研究とするためにその結節点などを考えていく必要がある。最終的には一冊の書籍として研究をまとめていく予定である。

2022年8月