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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2021年度

中世末期ヨーロッパにおける「奏楽天使」壁画についての学際的研究

日本学術振興会 特別研究員PD(受入機関:國學院大學文学部)
勝谷 祐子

1.研究目的、概要
 本プロジェクトでは《奏楽天使》図像をもつ中世の聖堂壁画を対象に、美術史、音楽学、楽器考古学、修復を専門とするメンバーが共同で壁画作品のデータベース構築を行い、成果を共有しながら各分野での研究を進め互恵的な発展を目指す。

2.研究進捗と得られた知見
 代表者勝谷の撮影した写真を共有し、修復家のアドバイスを受けながら加筆部分を確認した上で、音楽学者エルテル、楽器考古学/弦楽器制作者フェロウは楽譜と楽器の同定、分類を行うかたちで、データの構築を進行している。またエルテルは写本に見られるサン=ボネ=ル=シャトー壁画に描かれた音楽のヴァリエーションに関する研究、フェロウはサン=ボネ=ル=シャトー壁画に表された楽器を再構築するプロジェクトを進めている。
 今年度、勝谷はサン=ボネ=ル=シャトー壁画を対象に、ル・マン壁画、スゥヴィニー壁画との比較から、その寄進者を明らかにする論考をオセール中世学研究所研究誌にて発表した。またオーヴェルニュ地方の聖堂に置かれる板絵に関する修復保存の歴史について調査を行い、イタリア美術とパリ周辺の写本美術からの影響を認め、サン=ボネ=ル=シャトー壁画との様式的一致を確認することが出来た。
 フェロウは以上の研究成果を取り入れ、2022年5月21日モンペリエ大学主催サン=ギエーム=ル=デゼール中世音楽フェスティヴァルにてサン=ボネ=ル=シャトー壁画からの復元楽器 (4点は類型の楽器) を使用し、壁画に表された音楽を演奏するコンサートを実現した。

3.今後の展開
 プロジェクトの軸となるデータベース構築作業を進めてゆくとともに、勝谷は新たにサン=ボネ画家との様式的近似が見られる、トゥール図書館所蔵の写本について調査を進める。フェロウは2022年23年にかけてサン=ボネ=ル=シャトー壁画に表されたハープとリュートの復元を行う。また2025年には勝谷、エルテル、フェロウをコミッショナーとするストラスブール国立大学図書館企画展示室での展覧会を予定している。天井部全体を《奏楽天使》で覆う10点の中世壁画の紹介を行う本展覧会では、壁画写真に加え、フェロウの制作するサン=ボネ=ル=シャトー壁画から再構築した古楽器8点とその制作の様子、壁画の前での演奏を撮影したヴィデオの放映、エルテルによる各作品に描かれた楽譜に関する音楽学的考察、楽器の分類や分布、勝谷による修復保存に関する解説、美術史学的考察をパネルにて紹介し、本共同研究の成果を発表したい。

2022年8月

現職:日本学術振興会 特別研究員CPD(受入機関:國學院大學文学部)