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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2021年度

日本の伝統文化『折る・結ぶ・包む』で知る立体の手触り

埼玉県立大学保健医療福祉学部 教授
石原 正三

 本研究では、科学折り紙の実践的な教育研究から得られている作業仮説「立体概念の形成のためには、文字や画像の視覚情報を排除して、科学折り紙の制作に基づく触覚(体性感覚)情報を体験的に学習することから開始することが有効である。」に基づき、研究対象を折り紙から日本の伝統文化、主として手工芸へと広げ、作業仮説の検証を試みるとともに、立体概念を形成するための新たな手法を開発することを目的としています。

 物理学、結晶学、科学教育学、視覚情報デザイン学、設計工学、幾何学、及び教育工学を専門とする3名の研究者に、民俗学、及び宗教学を専門とする1名の研究者を加えた、4名の多彩な専門性を背景とする研究グループを構成し、それぞれの専門分野の視点から日本の伝統文化を捉えて、立体概念の形成を目的とする教育プログラムの開発を目指して研究活動を開始しました。

 従来、“To see is to believe.”として、視覚情報を通して立体物、あるいは立体構造に関する教育が行われてきましたが、元来、視覚情報は左右の網膜で受け取った二次元情報を脳(側頭葉)で情報処理して認識されていて、しかも、それを確認する術を我々は持ち合わせていません。いわば、思い込みで立体物を認識しているのです。この為、錯視や錯覚という奇妙な現象を体験することになります。そして、平面の幾何学から立体幾何学に次元が一つ上がるだけで、突然、難しく感じ、なんとなく腑に落ちないという印象だけが残ってしまうのではないでしょうか。

 本研究は、“To see is not always to believe.”を出発点として、触覚(体性感覚)、特に、アクティヴタッチと呼ばれる触覚(体性感覚)体験を立体概念の獲得のための導入情報として活用すること、また、視覚情報を立体認識の補助情報として活用することを通して、立体概念形成のための新たな教育プログラムを開発することを目指しています。

 本研究を開始した2021年度は新型コロナウィルス感染症が拡散して2年目に当たり、2度のワクチン接種が進んで鎮静化するかと思われましたが、変異株の度重なる出現により、既に、4回目のワクチン接種が進められていますが、未だに鎮静化の目途が立たない状況にあります。このような状況のため、当初予定していた調査活動を実施することが出来ず、Web上での情報収集と文献調査に終始することとなってしまいました。また、研究グループのメンバーが勤務する大学(埼玉県立大学、金沢工業大学、千葉工業大学)で、対面形式で行う予定であった研究会も開催できず、遠隔地Web形式での研究会を3回開催するに止まりました。なお、3回の研究会で伝統文化として取り上げて議論したものは、科学折り紙と綾取り(あやとり)、及び東寺の立体曼荼羅でした。

2022年8月

現職:埼玉県立大学名誉教授