成果報告
2021年度
女性団体がジェンダー政策をもたらすとき――日本における地域女性団体の比較研究
- 神戸大学大学院法学研究科 博士課程後期課程
- 寺下 和宏
研究の動機、意義
本研究は、日本の自治体レベルにおける女性団体の多様性とジェンダー政策の関係を検討した。先行研究は、女性の政治参加によって、ジェンダー平等や福祉政策の拡充をはじめとするジェンダー政策がもたらされることを明らかにしてきた。この中で、女性団体は女性政治家の同伴者として、世論啓発やアジェンダ設定の役割を担う重要な存在として描かれてきた。しかし先行研究は、いかなる女性団体がどのように政策に影響を与えているのかについての実証は不十分である。そこで本研究は「女性団体がジェンダー政策を推進する」という前提から距離を取り、日本の地方自治において、女性団体がいかなる活動をし、政策過程にどの程度関与しているのかを検証した。
目的
本研究の目的は以下の2つである。第1に、日本の女性団体はどのような活動を行ってきたのかを明らかにすることである。具体的には、NPO法人の活動目的データと、地方紙を含む新聞記事を用いて、女性団体の活動を量的に把握する。さらに、女性団体関係者へのインタビューを通じて、新聞記事では表出されない活動の実態や障害を解明する。
第2に、自治体におけるジェンダー政策の現状を把握し、女性団体と政策の関係を明らかにすることである。具体的には、先行研究が扱ってきた男女共同参画関連条例・計画と同時に、男女共同参画関連政策の予算データを収集し、そもそも自治体がどのようなジェンダー政策に関与しているのかを明らかにする。その上で、第1の目的で得られた女性団体の活動データと併せて検討し、団体の活動と政策への影響を定量・定性の両面から検討する。
研究成果・研究で得られた知見
現在までのところ、本研究によって得られた主な知見は、以下の2点である。第1に、日本における女性団体の活動の多様性と「特異性」である。他国を対象とした研究でも明らかにされているように「女性」の利益は多様であるため、女性団体が代表する利益は自明ではない。そこで、日本の「男女共同参画」関連のNPO法人の活動目的を量的に検討したところ、国際的な傾向と同様に、多様な利益を代表していることが明らかになった。例えば、NPO法人が登録した「活動目的」のテキストを用いて、トピックを集計したところ、分野数が2の団体に限っても「啓発」「子育て・保育」「児童・教育」「女性の安全・自立」「地域福祉・高齢者」「婚活・少子化」「労働・雇用」の7つの活動トピックが見出せた。以上のことから、日本の「男女共同参画」関連のNPO法人は多様な活動を行っていることが示唆される。
一方、日本ならではの「特異性」も見受けられた。最も顕著な「特異性」として「結婚・婚活」に関連する団体が「男女共同参画」関連団体を名乗っている点があげられる。これは、日本の「ジェンダー平等」は「少子化」や「晩婚化・未婚化」といった純粋な意味でのジェンダー平等(gender equality)とは異なる問題によって動機づけられていることを示している。また「子育て」や「介護」などの性役割に準じた目的を持つ団体が「男女共同参画」分野の団体に多く見られることも以上の推論を裏付けている。この「特異性」をもつ「男女共同参画」概念が政策過程への参入にどの程度影響しているのかを検討する余地がある。
第2に、女性団体関係者における世代間での葛藤と、それによる政策過程への参入障壁である。インタビューの結果からは、地域における女性の自助的活動が多く見られた一方、それ以外の活動や政治活動に「手を出そう」とした場合に、世代間の認識ギャップに直面する現実が明らかになった。また、同じ女性団体間においても、世代間のギャップによって、協働が進まないことがあることもわかった。そもそも地域によっては、活動の担い手が高齢化しており、世代交代が進んでいない。この世代交代の難しさは、女性団体が活発であるとされる韓国でも同様であるように、今後ジェンダーを取り巻く市民社会において重大な問題になりうる。
今後の課題・見通し
これまでのところ、女性団体の活動と自治体の政策の関係の検討はできていない。すでにデータの収集は終えているため、引き続き詳細に検討する予定である。また、女性団体・運動関係者だけでなく、政治家・自治体職員へのインタビューを網羅的に行うことで、女性団体の多様性と「特異性」をもたらした政治的背景を明らかにする。
以上を行うことで「ジェンダー平等後進国」とまで呼ばれる日本において、いかにしてジェンダー政策の導入を進めることができるのかという実践的な問題にも示唆を与えることになる。また、申請者が別途行っている韓国における女性団体の調査とあわせ、日韓を比較検討することで、ジェンダー平等という共通の課題に、市民社会がどのようにして立ち向かうことができるのかを検討していきたい。
2023年5月
※現職:日本学術振興会特別研究員 PD (受入機関 京都大学大学院法学研究科)