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研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2020年度

音楽祭を支える地域組織「友の会」の持続可能性に関する研究―霧島国際音楽祭と草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルを事例に―

明治大学政治経済学部 助手
熊田 知晃

【研究目的・方法】
 本研究の目的は、音楽祭を支える地域組織である霧島国際音楽祭鹿児島友の会、霧島国際音楽祭きりしま友の会、草津夏期国際音楽アカデミー友の会(以下、総称して「友の会」と呼ぶ。)の現状と課題を分析し、「友の会」の持続可能な運営の為に何が必要か明らかにすることである。
 1980年にはじまった霧島国際音楽祭及び草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルは40年以上の歴史を持つ。「友の会」も結成してから長い年月が経過し、会員の減少・高齢化や事務局の後継者不足等の課題に直面していた。さらに、2020年度にはじまったCOVID-19により、2021年度以降に開催される音楽祭は延期・中止となり、同時に「友の会」の活動自体も制限された。
 そのような中で、「友の会」と研究者との共同研究をはじめ、課題・解決策の共有・検討を行ってきた。音楽祭がはじまって過去40年以上の歴史の中で、本格的な交流が行われたのは初めてのことである。かかる目的を達成する為に、本研究では、①会員への質問紙調査、②相互の音楽祭の現地視察・意見交換を実施した。

【調査結果①:会員への質問紙調査】
 2020年10月26日から11月25日までの間に、2020年3月時点の会員を対象に、質問紙調査を実施した。友の会の会員の傾向を把握するものである。
 調査結果によれば、回答の3分の2が65歳以上で占め,高齢化が進んでいることが裏付けられた。ただし、会員の在籍期間は平均して10年に満たない為、10年以下のペースで入退会が行われていることが新たに分かった。また、特典を得る為に入会する人よりも、音楽祭を支援したい為に入会する人の割合が多かった。

【調査結果②:相互の音楽祭の現地視察・意見交換】
 2022年7月23日から25日までの間に、草津夏期国際音楽アカデミー友の会が霧島国際音楽祭を2022年8月22日から24日までの間に、霧島国際音楽祭鹿児島友の会及び霧島国際音楽祭きりしま友の会が草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルを視察し、意見交換を行った。「友の会」の活動がどのように行われているのかを把握し、利点・欠点を共有するものである。
 視察・意見交換の結果によれば、視察した会員は、主催者や地元と「友の会」との一体感、「友の会」の会員の熱量、音楽祭期間中・外の活動量、音楽祭における役割等のそれぞれの差に関心を抱いていた。

【考察】
 質問紙調査によれば、まず会員の高齢化について、たしかに会員は高齢化しているが、会員として長く在籍して高齢化しているのではなく、高齢化した人が新たに会員になっていることが明らかとなった。また、事務局の後継者不足について、そのような新規会員が音楽祭を支援したい場合に、「友の会」の活動に参画できるような環境が醸成されていないことも示唆された。また、視察・意見交換で感じられた関心は、「友の会」と主催者との「距離感」に由来する場合が多いことにも注目したい。「友の会」は一定の地域代表的役割を担う。
 以上を踏まえ、「友の会」の持続可能な運営に何が必要かと問われれば、第一段階としては相互交流が必要であったと言える。相互の活動を観察し、課題や解決策を共有・検討することは、それぞれの「友の会」の活動を客観的に観察できることに繋がる。そのような気付きを得ることにより、それぞれの運営の自己革新を促すことになろう。2023年度は、自主的に相互交流が継続されることになった。本研究による視察は役職者限定であったが、会員も対象となる。
 また、第二段階として、「友の会」の活動の公式化に期待したい。主催者との「距離感」には3種類存在する。会員と役職者、役職者と主催者、会員と主催者である。それぞれ適切な距離を保つことが重要である。その為には、主催者との要望のやり取りや調整も公式化する必要がある。つまり、会員にとって、主催者とどのようなやり取りや調整が行われているのかを公開することが求められる。それは、新規・既存の会員の「友の会」の活動への理解に繋がり、新規会員の獲得や事務局の承継に繋がると考える。
 また、第三段階以降についても検討する為にも、共同研究を継続することが求められる。そのような点で、本研究によってはじまったこの共同研究自体が「友の会」の持続可能な運営に繋がり、今後も継続することが期待される。

【成果の公表・メディア掲載】
1.南日本新聞「老舗音楽祭の3友の会交流」、2022年8月1日
2.上毛新聞「“同い年”霧島音楽祭と交流」、2022年8月24日
3.熊田知晃・古木圭介・福壽浩・中堀清哲・亀石和孝・宮脇宏・中澤隆「音楽祭を支える地域組織「友の会」の持続可能性」、日本文化政策学会:第16回年次研究大会「企画フォーラムⅡ-C」、2023年3月19日。


2023年5月

現職:明治大学政治経済学部 兼任講師