サントリー文化財団トップ > 研究助成 > これまでの助成先 > バル街・バルイベントの持続・継続性の研究

研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2020年度

バル街・バルイベントの持続・継続性の研究

函館西部地区バル街実行委員会 事務局長
加納 諄治

[1]本研究の目的は、「函館西部地区バル街」が 16年間続いてきた理由をより深く掘り下げるとともに、全国へ広がったバルイベントの継続性も併せて探り、同種イベントの継続性・持続性の要件を明らかにすることである。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で計画していた活動の多くが未実行なので、以下に記す内容は中間報告にとどまるものとして発表せざるを得ない。 [2]①参加店調査:函館西部地区バル街は、2022年秋まで連続6回、非開催となった。観光客の中心だったインバウンドの激減もあり、バル街参加店のなかには経営存続の危機を訴える飲食店も出てきた。対面での参加店への聞き取りや交流会を断念せざるを得なくなったので、代替手段として3つのことを行った。まず、「バル街からの手紙」という連絡誌を復刊して、参加店と実行委員会の情報共有の場とした。次に、バル街の継続性・持続性に関するアンケート調査を行い、参加店の意識の集約を図った。最後に、アトランダムに参加店及び協力店、関係者に電話などで聞き取りを行い、できるだけ情報の蓄積に努めてきた。 [3]参加店に対するアンケート調査の回収率は約 40%(28件)で、主な発見事実は次の2 点である。第1に、〔参加動機〕で最も多かったのは「西部地区の盛り上げ」で、われわれが2回目以降を続けていこうと思った理由と合致していた。以下、「楽しそうだから」「自店のPR」「実行委員からの誘い」の順に多かった。「バル街当日の売り上げ」という回答が少なく、当日の利益目的の参加が少ないことも確認された。第2に、〔継続してきた理由〕について、「実行委員会の活動」が最も多く、以下、「参加店提供のピンチョス(の質)」「バル街運営の仕組み全体」「参加店の雰囲気と接客」「西部地区の景観」の順に多かった。個別の聞き取りでは、「イベントのために決められた時間に本部のような所に店側が出向く必要がなく、実行委員が手分けして制作物を届けてくれたり、終了後の精算事務に来てくれることがありがたい」という意見があった。実行委員会による参加店の負担軽減が、継続の要点であることが確認された。 [4]②全国のバルイベント調査:各地のバルイベントに参加したうえで、継続性についての対面会議を積み重ねる計画だったが、実際に参加できたのは計画の2割にとどまっている。代替手段として、日本各地のバルイベントを開催する団体を対象に、アンケート調査を実施した。回収率は50%弱(58件)で、長年交流のあった団体が所在不明になっていたり、担当者退任により回答を断られるケースもあった。主な発見事実は、次の3点である。 [5]第1に、バル街主催団体の〔組織形態〕は、「民間の任意団体」が最も多く、次に「行政府・商工会議所」が多かった。多くの団体で NPO や企業の関与が確認された。第2 に〔運営資金〕に関して、函館西部地区バル街のようなチケットの売上金だけで賄っている団体は3割に満たなかった。運営資金の確保が、継続の要点であることが確認された。第3に、〔開始理由〕は「商店街・ 中心市街地の活性化」「飲食店の集客機会の創出」が多く、〔継続理由〕は「参加店と参加者の熱意・要望」「参加店のPR」が多かった。開始理由と継続理由が重なっているので、実現可能な開始理由の設定が、継続の要点である可能性が示唆された。 [6]ここまでの分析からは、中心市街地活性化のプロジェクトなどで言われてきた即効性、過度の効果の期待などではなく、地域商店・住民とのインタラクティブな関係を基本にしたイベント運営が求められていると考えて良いのではなかろうか。なお、函館西部地区では、バル街が休止しているこの期間に、伝統的建造物や空き家になった建物をリノベーションして新しい地域空間を作る活動が、若手建築家や不動産経営者などが中心になって進められている。このような活動は、地域文化の存続と発展にバル街・バルイベントの存在も貢献してきたという喜びを感じる事象である。

2022年8月