成果報告
2020年度
「アナーキーなまちづくり」の実践理論に関する研究
- 大阪国際大学経営経済学部 准教授
- 早川 公
1. 研究目的・概要
本研究は、相互性と自立性を基盤として管理や標準化に抵抗しながら生活空間を改編するプロジェクトを「アナーキーなまちづくり」と呼び、その実践理論の解明を試みるものである。すなわち、「アナーキーなまちづくり」のレンズで社会実践を検討することによって、現代のまちづくり研究が捉え損なっている社会構築の技法を浮かび上がらせ、来るべき持続可能な社会の足場となる学問の未来を拓くことが目的である。
本研究では4つのプロジェクト(在来野菜、フットパス、移動/移住、起業)に関わる研究実践者を相互に対象とし、その「肩越し」に各々の取組みを考察する。具体的には、それぞれのフィールドを相互に訪問し、そこでの討議を通じて進めると計画した。
しかし、新型コロナウイルスの影響により相互のフィールドワークは一部を除いてほぼ実施できず、今年度は研究会メンバーでの討議が中心とならざるを得なかったが、以下に示す3つの知見が得られた。
2. 新たに得られた知見
第1に、本研究が目的としている実践理論の解明である。研究プロジェクト開始時に直感していたD.グレーバーの議論(とくに『負債論』)において示された社会の3つの様相(コミュニズム、交換、ヒエラルキー)は、既存のまちづくり実践を整理する際の大きな助けとなることがわかった。
第2に、D.グレーバーの読解およびJ .スコットのさらなる読解を通じて、アナーキーな実践に必要とされる合意形成に関わる具体的な方法を「統治されない技法」として見通しを立てることができた点である。これについてワークショップ・ファシリテーターかつ研究メンバーの小笠原と討議し、合意形成のための手法として「ロングハウス・デモクラシー」と「NVC(Non Violent Communication)」 を抽出した。
第3に、研究メンバーの専門領域との重なりである。たとえば、教育学者エンゲストロームの「野火的活動」に代表される拡張的学習理論(荒木)、農学における「在地の技術」論(近藤)、法社会学における「在地の法技術論」(廣川)は本研究と重なりをもつ可能性を指摘する。このように、異なる専門分野・実践領域のメンバーによる触発は、当初の想定をこえた可能性を示した。
3. 今後の展開
今年度遂行できなかった相互のフィールドワークを実施し、構築した枠組みの精緻化を図る。さらにそれをもとに、海外の「まちづくり」の調査を予定している。「統治されない技法」の教育の実践を検証して論文化し、さらに研究テーマ全体の書籍化を企画する。
2021年8月