成果報告
2020年度
日本の鐘と欧米の鐘の音響解析から導く日本独自の音響表現の研究
- ニューヨーク大学・スタインハード校音楽・演劇学部 客員研究員
- 西岡 瞳
1.研究の目的・概要
本研究は、日本古来の梵鐘音の独自の響きへの興味に端を発し、西欧の鐘を比較対照することによって、鐘特有の倍音構成や音色、音響の特徴を解明し、それらを活かして全く新しい響きを生み出す作曲技法や音響技法を高い汎用・応用レベルで創出することを到達目標としている。先行する他の鐘に関する研究と一線を画する特色として、研究者の専門が物理、音響工学等の科学分野ではなく作曲という純然たる音楽家である点であり、音楽的視点をもって研究されていることである。故に、鐘の音に対する音響学的・物理的アプローチによる単なる音響解析に留まらず、作曲、心理学、マシーンラーニングなど多角的かつ学際的な視点で研究に臨んでいる。
2.研究の進捗状況
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当初予定していたフィールドレコーディングの計画の殆どは断念せざるを得ず、また、ニューヨーク大学(以下NYU)内のスタジオにおいて対面で行う予定としていた試聴実験も学内設備の全面使用中止を受けて断念した。試聴実験については、オンライン形式での実施を画策したが、実験用コンピュータプログラムの見直しや評価システムの再構築などほぼ全てをゼロから計画せねばならず、最終的には頓挫したまま帰国せざるを得なくなった。現在、研究計画を抜本的に見直し、鐘の音を使った音響作品を制作してYouTube等のオンラインプラットフォームを通じて試聴実験を実施する予定である。また、当初録音予定としていたカリヨンコンサート等の演奏の機会もコロナにより中止、スタンフォード大学での電子音楽のイベントや北米でのカリヨン国際シンポジウム開催もコロナにより延期となり、研究成果の発信についてもゼロから再検討を行った。その結果、次年度以降のGCNA(The Guild of Carillonneurs in North America)での発表の機会を得られたことは幸いであった。
3.研究の成果、得られた知見
こうした困難極まりない状況下でも、かろうじて明るい兆しとして得られた第一の成果は、オンラインでの試聴実験の可能性を模索する中でアメリカに新たに研究協力者を得て、彼らとの国際的なオンラインミーティングを通じ、従前にはなかった新たな研究の道筋を見出せたことである。また、実際にホールを使用したコンサート形式の発表方法が困難になったことで、電子音楽やメタバースなどのジャンルの研究メンバーとの協働の方向性を見出し、当初の発想にはなかった領域へと研究フィールドが拡張している。
第二の成果としては、非常に制限されたフィールドワークの機会を少しでも活かそうと努めた結果、当初の予定外の種類の音源採取に恵まれて、わずかながらでも研究対象音源が拡大できたこと、それでも研究対象としては絶対数が少ない故に、より多方向・複数の視点からの解析方法を実現できる録音方法に辿り着いたことである。
4.今後の展開
今後は、現在の研究拠点である東京藝術大学とNYUの連携で研究を進め、コロナ禍で遂行できなかった海外でのフィールドワークを順次実施し、試聴実験も対面/オンラインのハイブリッド方式に切り替えて、研究の深化を目指したい。また、延期されていたカリヨン奏者とのコラボレーションや国際学会への参加、研究成果の英語論文投稿などに果敢に取り組みたい。
2022年10月