成果報告
2020年度
デジタル民主主義と選挙干渉:日本・アジア・米国における選挙干渉のリスクと脆弱性
- 慶應義塾大学 総合政策学部長
- 土屋 大洋
1.研究の目的
3か年(新型コロナウイルス感染症蔓延により当初よりも1年間延長)の研究プロジェクト「デジタル民主主義と選挙干渉:日本・アジア・米国における選挙干渉のリスクと脆弱性」の目的は、外国政府等による選挙干渉の狙い・具体的な手法・影響を考察することを通じて、選挙プロセスの電子化・インターネット利活用(デジタル民主主義)が進む中、必然的に高まるリスクや脆弱性を特定し、低減策を検討することである。本研究は特に中国やロシアによる選挙介入・影響力行使を想定し、2020年1月の台湾総統選挙・立法委員選挙、2020年11月の米国大統領選挙等に焦点を当てた。
2.研究で得られた知見
本研究で得られた主な知見は以下の点である。
第一に、外国政府による選挙干渉の手法は多様であるが、投開票・集計システム等の選挙インフラに対する直接攻撃よりも、デジタルプラットフォームや伝統メディアで展開される情報工作活動の影響が最も懸念されるリスクである。こうした活動は、有権者の認知、異なる社会集団の対立関係、政府やメディアへの信頼に修復困難な影響をもたらす場合がある。
第二に、中国による選挙介入・影響力行使は(特にロシアやイランとの比較において)必ずしもデジタルプラットフォームに依存している訳ではなく、人的ネットワーク・親大陸政党・経済関係等多岐にわたる。結果、中国による短期的・直接的な選挙干渉と中長期的・広範な影響力行使の区別は非常に難しい。
3.研究の成果
研究助成期間(2019年8月~2022年7月)、土屋および研究助成の申請メンバー3名(明治大学・湯淺墾道、慶應義塾大学・加茂具樹、東京海上ディーアール・川口貴久)は助成対象研究に関して①2回(計6名分)の学会報告、②2回(計3名分)の一般報告、③21本の論説・レポート・単行本所蔵論文の執筆、④2冊の書籍執筆を行った。本研究の成果の詳細は、共編著『ハックされる民主主義: デジタル社会における選挙干渉リスク』(千倉書房、2022年)として公開された。
4.今後の展開
第一に本研究は、外国政府による“日本”へのデジタル選挙干渉を確認できなかったものの、今後のインターネット投票の導入可能性や安全保障環境の変化を踏まえて、日本に対する選挙干渉に関する調査・研究を継続してきたい。第二に、本研究は“選挙”に対する干渉・影響力行使に焦点を当てたが、今後は感染症流行時や東アジア有事等の幅広い危機における影響力行使に焦点を当てたい。
2022年8月
現職:慶應義塾大学 常任理事