成果報告
2020年度
人と知識と社会をつなぐメディアとしての「本」と「書店」に関する参加型研究
- 東北大学大学院情報科学研究科 講師
- 坂田 邦子
1.研究の進捗状況
「研究目的」として、 (1) 「参加型編集」と「循環型出版」モデルの実現に向けた実践的研究、(2) 地域における「ヘテロトピア」としての書店の位置づけに関する理論的考察、これらに基づき、(3) 新しい出版・読書・書店のモデル化に基づく読書文化の再検討の3点を掲げた。
(1) については、下記2.①〜③で示す成果が得られた。 (2) については、下記2. ④で示すような論考を執筆中である。(3) については、(1) の実践研究がコロナ禍につき1地域でしか実施できていない、調査が実施できていないため、データ不足につき未着手のままである。
2.研究の成果、得られた知見
① 参加型研究の手法としてのCBPR(Community Based Participatory Research)*の妥当性
(1) “PDCA Cycle” (Plan→Do→Check→Act)*というプロセスは、企画→編集→校正→出版という編集・出版プロセスと親和性が高く、課題設定から市民と研究者が協働して行うことで、実践知と学問知の対話の中から新たな可能性が生まれる可能性が高い。
*Hacker(2013)、武田(2015)、池田(2021閲覧)
(2) 「コミュニテイ」概念を地域コミュニティとして捉え、「内」と「外」の文化的中間(in-between)において多様な参加者間による「ハイブリディティ」が可能になる*。
*ホミ・バーバ(1994=2005)
(3) 協働を通じた相互対話により市民の主体的意識*が醸造される。
*池田(2021閲覧)
② CBPRに基づく「参加型編集」、「循環型出版」モデルの構築(下図)
③ 構築したモデルの実践的検証
仙台実践において上記① (1)〜(3)の事実が得られ、その可能性が一部検証された。(詳細は、少なくともあと1地域以上の実践研究を行った後、論文として執筆予定)
④ 地域における「ヘテロトピア」としての書店の位置づけに関する考察
(1) 「多くの断片的な諸世界」が一度に共存する「ヘテロトピア」*としての書店のデザイン→書店の文化的意義について、上記実践を事例として議論。
* ミシェル・フーコー(1984)、上村忠男(2012)
(2) 書店は地域における「第三空間」*として表象と実存を媒介する空間として位置づけられる。
* アンリ・ルフェーブル(1996=2005)、エドワード・ソジャ(1974=2000)
(3) 誰もが参加でき、誰もがコミュニケーションに参加できる場として書店を地域に拓いていくことで、新たな文化を創出する場としての「第三空間」*「サードスペイス」*となる。
*ホミ・バーバ(1994=2005)*レイ・オルデンバーグ(1999=2013)
3.今後の課題
2020年冬以降のコロナ禍により、参加型実践研究をベースとする本研究は、オンラインも含め手法を模索しながら実施してきた。しかしながら、なんとか遂行した仙台実践により、現場での対話や身体コミュニケーションの重要性がさらに強調される結果となった。
コロナ禍では研究の遂行が困難であり、収束するのを待ち、実践研究を強化したうえで、比較研究を行い、実践に基づく理論をさらに展開していくことを今後の課題とする。
2021年8月