成果報告
2020年度
eスポーツ倫理の構築に向けた対戦型ビデオゲームの文化と規範の研究――スポーツ倫理学とゲームスタディーズの架橋
- 広島大学大学院人間社会科学研究科 助教
- 岡本 慎平
1.研究目的
本研究は、世界的なビデオゲーム人口の増加とその興行としての「eスポーツ」の台頭をふまえたうえで、そうした活動において発生する倫理問題について考察していくための基礎とするために、哲学、社会科学、および実務者の視点から多様な議論を呼びかけることを目的としていた。COVID-19流行により予定の計画を大きく変更せざるをえなかったが、ある程度の成果をおさめることができたと考える。
2. 成果と考察
本年度において本研究グループとして実施したイベントは大きく2つある。2021年8月28日に、第三回のeスポーツ倫理学研究会ワークショップを開催し、スポーツ哲学に造詣の深い稲岡大志氏とeスポーツの現状に詳しいeスポーツアナリストの但木一真氏に講演をお願いした。また本研究助成の支援、および応用哲学会の主催により、2021年9月25日に第13回年次研究大会シンポジウム「eスポーツと応用哲学」を企画し、実施することに成功した。ビデオゲーム研究者の松永伸司氏、スポーツ哲学者の田中彰吾氏、eスポーツ活動の実務家として株式会社NTTe-Sports代表取締役副社長の影澤潤一氏の各氏から、それぞれeスポーツの哲学的含意および倫理的課題について講演をお願いした。このシンポジウム開催準備のために複数回オンラインでの打ち合わせをおこなった。
また、代表者である岡本慎平は2021年8月20日に第29回日本運動整理学会において、eスポーツと倫理に関する講演をおこない、同年12月2日に、「アバター共生社会の倫理」セミナーにおいて、ビデオゲームへの依存が病理的状態となってしまう、いわゆる「インターネット・ゲーム障害」のもつ倫理的含意について講演をおこなった。
3.残された課題
本研究では、「eスポーツ」という新たな活動のもつ倫理的含意を探るために、人文・社会科学の研究者だけでなく、医師、企業、実務者、自然・生命科学者など様々な方々と議論を交わし、今後の倫理問題の特定につながる様々な論点を明示化するよう心がけた。しかし、COVID-19の流行など当初想定しなかった社会的情勢の変化により研究活動に支障を来すこととなってしまった。しかし、こうした情勢下においてもeスポーツの発展が続けていることは間違いなく、今後もその動向を注視していく必要がある。
2022年9月