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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2020年度

在外邦人の保護、輸送、救出を巡る国際協力

防衛大学校人文社会科学群 准教授
石井 由梨佳

(1)本研究の目的及び計画の実施
 本研究は、在外邦人の保護救出について日本が領域国や他の救出国とどのように協力を強化するか、及び日本にいる外国人の救出を望む外国政府にどのように対応するかについて、法的側面、政策面、運用面から多角的に検討するものである。
 邦人保護についての研究の多くは、領域国の同意を得ない事例に着目してきた。しかし、実際には救出国は領域国や他の救出国との国際協力を通じて活動することが多く、そのあり方を検討の射程に入れる必要がある。ちなみに、自衛隊法84条の3の邦人保護は領域国との協力がある場合にのみ実施可能である。
 本研究では、(1)日本が領域国と協力して在外邦人保護を行う場合、(2)大規模災害が発生するなどした場合に、日本に外国を受け入れる場合、(3)北大西洋条約機構(NATO)加盟国間における協力体制のように、救出国間で協力する場合に分けて、検討を行った。また、以上のいずれの場合においても、軍が保護活動を行うのは最後の局面である。そこで本研究では、外務省が所轄する邦人保護や民間主体の退避にまで視野を広げることを意識した。

(2)研究計画の実施
 2021・2022年度は、有識者に対するヒアリングを行い、自衛隊の運用上の課題、米軍とタイが共同で行っている多数国間演習(コブラ・ゴールド)の実態、2020年1月武漢からの邦人退避の実態、自衛隊を他国領域に派遣する際の課題等について、有益な示唆を得た。
 さらに2021年8月に、自衛隊による、アフガニスタンにおける邦人輸送が開始された。このオペレーションは、新政府が樹立し、日本が当該政府を承認していない中で実施された初めての邦人輸送である。また、この件を契機にして自衛隊法が改正された。その後も引き続きヒアリングを行い、他国との協力の可能性や自衛隊法の意義と限界についての理解を深めることができた。

(3)研究成果
 主要な研究成果は以下の通りである。

〔刊行物〕
 • 武田康裕編著『在外邦人の保護・輸送』(2021年、東信堂)  • Yurika Ishii, “The Legal Challenges of Rescue of Nationals Abroad in the Taiwan Strait Crisis,” International Legal Studies (2022年冬刊行予定)

〔学会報告、シンポジウム等〕
 • 2021年11月28日に、日本防衛学会・令和3年度(秋季)研究大会・共通論題部会「在外邦人の保護・救出」において、下記報告及び討論を行った。
司会兼討論者 武田康裕、討論者 宮本悟
① 真山全「在外自国民保護の国際法的評価:朝鮮半島・台湾からの退避にも触れつつ」 ② 山中倫太郎「日本の在外邦人退避法制の特徴:朝鮮半島・台湾の有事における退避にも触れつつ」 ③ 門間理良「台湾有事:邦人退避・救出における検討課題」 ④ 関口高史「朝鮮半島及び台湾海峡有事における退避活動:想定されるモデルケースの検討」  • 2022年5月16日に米国海軍大学で開催されたThe 4th Annual Alexander C. Cushing International Law Conference: "International Law: Conflict at Sea"において、下記の報告を行った。
Yurika Ishii, The Legal Challenges of Rescue of Nationals Abroad in the Taiwan Strait Crisis

 今後も、メンバーが各々成果を社会に還元する予定である。

2022年8月