成果報告
2019年度
地歌舞伎文化の保存と継承を考える~下呂市における地歌舞伎保存会の活動研究を通して~
- 岐阜県立益田清風高等学校 教頭
- 中村 浩一
1 研究の目的
明治から大正時代にかけて全国的に隆盛した地芝居は、戦後の一時的な復活の後は急速に衰退していくが、岐阜県においては農村部を中心に活動が維持され続け、「地歌舞伎」と称されるに至っている。昭和50年代になると、地道に継承活動を続ける各地域の保存団体が協議会を設立した。現在県内には全国で最も多い30の団体が活動を続けており、県や市町村は、地域活性化ならびに観光施策の一つとして支援を行っている。
本研究では下呂市にある二つの保存会の保存・継承活動に注目し、その特徴と現状について関係者との情報共有を図りながら、これからの活動維持のため、後継者育成の方策について確認することを目的とした。また、高等学校での学習課題として保存会の活動を記録・研究することにより、地域理解を深めることも目的とした。
2 研究の成果・得られた知見
(1)下呂市の2保存会は、国重要有形民俗文化財(白雲座)や県重要有形民俗文化財(鳳凰座)である舞台建物の保存管理を行いながら、地域に根付いた活動を続けている。小学生以下の子どもから高齢者まで、さまざまな年代の会員が関わっており、春(鳳凰座)や秋(白雲座)の祭礼後に地歌舞伎を演じ、その保存継承に努めている。県内他地域には、後継者不足が課題となっている団体もあるが、下呂市においては小学生時の公演参加や行政支援による後継者育成事業により、確実な育成活動を行っている。その基盤にあるものは、保存会員はもちろんのこと、観客やボランティアとして公演活動を支える地域住民の愛着と協力であることを確認した。
(2)高校での学習活動においては、白雲座歌舞伎保存会員への取材、文献資料の調査、公演への生徒の出演についてまとめた研究作品を作成した。研究を進める中、生徒たちは時代の変化の中で失われていたかもしれない地域文化創出の場と機会を保存継承してきた先人の努力や協力を学び、自らの地域の文化価値を再確認することができた。生徒作品を高校生対象の「地域の伝承文化に学ぶ」コンテストに出品したところ、入賞(優秀賞)の成果を得たが、その内容を地域に還元する依頼を受け、県内文化施設で発表する機会を得た。
3 今後の課題
現在、県内の各地歌舞伎保存会は定期的に開催される協議会において情報交換を行っているが、今後の課題の一つとして挙げられるのが、指導者(師匠)の高齢化である。この課題克服のため、公演時の映像を記録し、その保存と活用を図っているところであるが、特に各師匠の持つ舞台公演全体に関わる知識や技術を将来に継承するためには、準備期間からの記録保存が求められよう。そうして、世代や地域を超えた協力が形成されるならば、地域文化の独自性はさらに高められ、伝承され続けるのではないだろうか。
このような課題を念頭に置きながら、本研究では引き続き鳳凰座歌舞伎保存会を調査研究する予定であったが、コロナウイルス感染予防のため、公演は中止となり、現地での取材調査は断念せざるを得なかった。また、下呂市と他地域の保存会の活動との比較検証も実施する予定であったが、十分な調査を行うことはできなかった。しかし、現在も関係者とは電話やWEB回線を通して情報共有を継続して行っているところであり、将来的には県外他地域(愛知県・長野県)の地歌舞伎保存会との連携や比較研究につなげたいと考えている。
2020年8月