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研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2019年度

限界集落における祭礼・民俗芸能の新たな継承可能性:住民・他出者・移住者・アーティストの協働を通じた継承へのとりくみ

滋賀県立大学人間文化学部 准教授
武田 俊輔

本研究は現代日本の地域社会における祭礼・民俗芸能について、他出者や移住者、アーティストが住民と協力して果たしうる役割、またその参与過程での祭礼・芸能や担い手の再編を明らかにすることを目的とした。住民・他出者側の移住者らの参加への違和や移住者・新規参入者らの戸惑い、両者を仲介する人々や組織に焦点を当て、課題がいかに解決されて祭礼や芸能が成立するのかを分析した。本研究の対象となるのは以下の事例であった。

①山口県上関町祝島の神舞:祝島の住民は対岸での原発建設計画に38年間反対し、農産物・海産物の産直による島づくりを続けてきた。3.11以降、島の理念に共感する移住者が増加し、住民は高齢化が進む中で島の新たな担い手として受け入れており、人口350人の約1割がIターンや孫ターンの移住者となっている。島では4年に1度(2020年8月開催予定だったがコロナ禍で1年延期)神舞と呼ばれる祭礼が行われ、2016年の神舞では移住者にも重要な役割を任せている。

②滋賀県高島市朽木古屋の六斎念仏:山村である古屋集落の8月15日の盆行事として、集落内にある玉泉寺および各家の庭で行われてきた。担い手の高齢化で2012年に中絶したが、アーティストたちが外部からの担い手となって2016年に復活した。それに触発され、他出者やその孫世代が2017年より担い手として参加している。

③阿蘇市一の宮のおんだ祭り:毎年7月に行われる阿蘇神社・国造神社の豊作祈願の例祭である。ただしコロナ禍により2020年に行う予定だった調査は中止された。

2020年はコロナ禍により、いずれの祭礼についても早期に延期・中止が決定した。調査結果は主に①・②の集落の状況および祭礼の継承に必要な人的資源に関する集落の社会的ネットワークについて明らかにしたものとなる。①の祝島については、2016年以降移住者が祭礼において極めて重要な立場を占めるようになっている。例えば祭りの花形であるサイヘイ・ケンガイと呼ばれる舞い手が、初めて島内に血縁を持たない移住者から選ばれた。また準備段階でも意図的に移住者たちに重要な役割を任せ、その上で住民がバックアップしていた。原発に反対し、また都市とは異なる自然環境と生活共同に基づくライフスタイルを志向する移住者たちの受け入れにおいて重要な役割を果たしたのは島民の多くを占める原発反対派「上関原発に反対する祝島島民の会」、また祝島自治会、そして原発抜きで島の活性化を図る祝島・産直の会である。こうした住民団体が祭礼を通して、また祭礼に限らず移住者の定着や仕事、住居の確保に大きな影響を果たした。

また②の六斎念仏については、市教育委員会および地域おこしグループ「朽木の知恵と技発見・復活プロジェクト」の仲介によりアーティストが参加するようになった。当初は抵抗を示した継承者たちの態度も仲介によって軟化し、また復活を目の当たりにした継承者の孫世代からも奉納に参加するに至る。また2018年には数十年演じられていなかった演目がアーティストたちの協力で復活している。アーティストの比重が増す中での盆行事としての意味づけの変化や、アーティスト参加を可能にする助成金の継続性、アーティストたちによる芸能の身体技法としての高度化が、素人が参入できるはずの民俗芸能への参加のハードルを上げてしまうことがはらむ問題が、今後の課題として挙げられる。

2020年9月

※現職:法政大学社会学部教授

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