成果報告
2019年度
民俗芸能「エイサー」の創作にみるグローバル化と再ローカル化に関する研究:越境する琉球國祭り太鼓の活動を中心に
- 大分県立芸術文化短期大学国際総合学科 准教授
- 城田 愛
本研究の目的は、沖縄の旧盆で、各地域の青年たちが舞う民俗芸能「エイサー」に、どのような新しいアレンジがほどこされ、どのような社会的ネットワークを介して、日本国内および海外の移民先を中心に、グローバルに拡大していくのかを、創作エイサーの代表的団体「琉球國祭り太鼓」の事例から検証していくことにある。継続年度は、「琉球國」とあえて「國」を含む名称を用いて、沖縄県内外、日本国内外で、地域社会をめぐるさまざまな枠組みを越境しながら展開してきた当団体の活動に注目する。そして、1972年の施政権返還後の沖縄における民俗芸能が、地域社会、日本本土、移民先ハワイ、米軍基地等との関わりの中、どのように発展的に創作活動を展開してきたのかを、歴史的および実証的に明らかにする。文化の越境にともなう地域性の強調・協調の実態、および再ローカル化の過程について、さらに詳しく検討していく。
共同研究者は、琉球國祭り太鼓の創設者・演出家である目取真武男氏、および事務局長の伊賀典子氏、久万田晋沖縄県立芸術大学附属研究所所長・教授(民族音楽学・民俗芸能論)、森田真也筑紫女学園大学文学部日本語・日本文学科教授(民俗学・文化人類学)である。
新たに得られた主な知見として、以下のとおり報告する。
琉球國祭り太鼓のローカル化に関して、2019年11月2日(土)と3日(日)、「第55回 石垣島まつり2019」(石垣市)にて、石垣島出身のPANAと共演した八重山支部の演舞を伊賀氏が調査した。そして、高校卒業後に多くが進学や就職で島外へ出るため、若者と成人メンバーの維持が困難であるという「離島問題」をかかえながら、地元住民からの参加や協力をえている状況を確認した。
2020年2月11日(火)、久万田教授が主催する、ミュージシャンである宮沢和史氏によるレクチャー「沖縄民謡と沖縄ポップの今後について」が開催された。宮沢氏は、1990年代以来、琉球國祭り太鼓が積極的に伴奏音楽として導入してきた「沖縄ポップ」(沖縄固有のアイデンティティをポピュラー音楽において表現した音楽ジャンル)のこれまでの展開と今後について、沖縄民謡の伝承状況の現状や課題とあわせて報告した。このことは、琉球國祭り太鼓の活動のこれからの方向性を検討していくうえでも、非常に大きな示唆をあたえてくれた。また、宮沢氏は、2020年5月9日(土)、NHK Eテレで放送された「TVシンポジウム『文化がひらく地域の未来:今、私たちにできること』」(「サントリー文化財団40周年記念フォーラム」の収録)において、沖縄芸能の豊かさに関して、エイサーには伝統と創作があり、エイサーのありかたや継承に関する意見が双方にあると述べている。そして、さまざまな議論をへて両者が相互に理解することによって、伝統と創作とが(沖縄芸能を動かしていく)「両輪」となり、そのバランスをとることが大事である。それが、次世代への継承となっていくといった、本研究に有意義な発言をしている。
なお、2020年3月の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言以降、琉球國祭り太鼓の予定されていた公演は中止や延期を余儀なくされている。コロナ禍において、琉球國祭り太鼓のアメリカやボリビア等の海外も含めた各支部は、SNSやWeb会議サービス等を活用しながら、「リモート合同練習」や各支部における活動に関する情報発信につとめている。コロナ禍以前から、琉球國祭り太鼓は、スカイプを用いた「エイサー・ページェント」を実施してきたように、沖縄県内、日本、そして世界各地のローカル支部をグローバルに繋いできた。これは、琉球國祭り太鼓の舞台は、「万国津梁:世界の架け橋」となり、グローカルに発展していくという、創設者である目取真氏が一貫してもちあわせてきた視座と姿勢、そしてその現代的展開のあらわれといえる。
研究成果としては、城田が、『太平洋諸島を知るための60章:日本とのかかわり』(明石書店、2019年12月刊行)において、「観光にみるハワイと日本とのかかわり:爆弾投下から火花献花へ」として、琉球國祭り太鼓ハワイ支部による演舞写真(城田が撮影)とともに、本研究からえられた知見の一部を発表した。
久万田教授が、2020年1月19日(日)、沖縄市のエイサー会館が実施している「エイサー大学」の講師として、「エイサーと念仏歌謡について」と題する講演を担当した。
沖縄県教育庁文化財課史料編集班編『沖縄県史 各論編9 民俗』(沖縄県教育委員会)が2020年3月に刊行され、久万田教授は「近現代のエイサーの展開」、森田教授は「観光と⺠俗」の項目を執筆した。
久万田晋・三島わかな編『沖縄芸能のダイナミズム:創造・表象・越境』(七月社)が2020年4月に出版され、久万田教授は、「『琉球國祭り太鼓』の躍進:目取真武男と創作エイサー」等を執筆した。また、同書において、2019年5月に実施され、目取真氏が演出した「OKINAWAまつり2019 in 代々木公園」における琉球國祭り太鼓の演舞を久万田教授が撮った写真も掲載された。
城田が、野入直美・眞壁由香編『わったー世界のウチナーンチュ!海外に生きる沖縄の若者たち』(新星出版、2022年5月刊行予定)において、「ハワイへ渡った移民とエイサー:『琉球盆踊』から『オキナワン・ボン・ダンス』へ」を執筆して、入稿済みである。
新型コロナウイルスの影響により、当初、予定していたシンポジウム(2020年2月、全員)、琉球國祭り太鼓ハワイ支部および「第53回ホノルル・フェスティバル」の調査(3月、城田)、Crown Prince Akihito Scholarship(皇太子明仁親王奨学金)60周年記念パネル・ディスカッション(4月、城田、The Royal Hawaiian Resort Hotel Waikiki)、「OKINAWAまつりin代々木公園」の調査(5月、目取真氏、久万田教授、伊賀氏)、「琉球國祭り太鼓祭りin鹿児島」の調査(6月、全員)等が中止および延期になった。そのため、ウェブサイト上からの情報収集およびデスクワークを中心とした研究活動をおこない、昨年度の分とあわせて、研究成果の一部を活字化する作業をおこなった。
今後の課題として、琉球國祭り太鼓の事例と、他の創作エイサー団体、さらには沖縄県内外における他の民俗芸能の創作化との比較をとおして、琉球國祭り太鼓のグローバル化と再ローカル化に関する、より多面的な考察をおこないたい。
2020年8月