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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2019年度

生成期の宝塚歌劇とレヴューのグローバリズム・政治・身体

立命館大学文学部 教授
宮本 直美

1.研究目的と得られた知見

本研究は「レヴュー」というジャンルを日本に定着させた宝塚歌劇団の役割を、単に独特の女性劇団として捉えるのではなく、大正~戦後までの社会的文脈、すなわちグローバリズム、政治性、身体の観点から再考することを目的としている。本研究の活動と得られた知見は以下のようにまとめられる。

(1)「帝国日本と少女歌劇」(京都大学人文科学研究所主催)と題するワークショップに参加し、民俗学・歴史学・演劇学・音楽学の専門家との意見交換を行った。全国の少女歌劇活動と比較することにより、多くは宝塚少女歌劇とは違って固有の劇場を持たず、各地を巡演していたこと、各地に興行師のような人物がネットワークを作り、ノウハウの伝授が行われていたことが明らかになった。少女文化は東京や大阪といった大都市のみの現象ではなかったことも、宝塚少女歌劇の意味を見直す上で重要な示唆となった。

(2)戦前のイタリアからの「国家ファシスト党日本及び満州国派遣団」の日本滞在報告書を調査し、その後の宝塚歌劇団のイタリア公演との繋がりを分析した。研究期間後半にはまたイタリア・ファシスト政府の民衆文化省が推進した「演劇愛好会」について資料調査を行い、こうしたイタリアの地盤が宝塚少女歌劇団のイタリア公演を準備したことを明らかにし、単に日独伊防共協定という大雑把な政治的背景からは見えてこない事情を明らかにした。

(3)宝塚少女歌劇の演出家である堀正旗におけるプロレタリア演劇の芸術および思想の影響について国内資料調査を行った。この演出家の作品は宝塚少女歌劇における左翼性の視点を探るのに鍵となることもあり、在独研究を予定していたが、コロナ禍による渡航制限のため、予定を変更した。国内資料から日本の演劇界におけるドイツ演劇文化の影響を調査し、堀の故郷である広島でも資料調査を行った。

(4)階級文化としての宝塚少女歌劇の時代的意味を明らかにすべく、大正デモクラシーの思想と民衆芸術議論について、民衆芸術関係史料の調査を行った。民衆芸術は当時の演劇界のキーワードとなったが、そこには民衆の教化の性格も確認できた。このような背景に参入してくる宝塚少女歌劇の創始者小林一三の国民劇の思想は、彼個人というよりも政治的・社会的議論の中で醸造された。

(5)宝塚のレヴュー演出家が戦後日本のヌードレヴューに関わった点を明らかにすべく、日劇ミュージックホールの公演パンフレット収集を行い、そのテーマ傾向や構成を分析することで全体像と内容の把握に努めた。レヴュー演出家が1950年代にはヌードレヴューと伝統芸能を組み合わせるような実験的な試みを行い、演劇界や映画界にも影響を与えている可能性を考察した。

2.今後の展開

今期の研究期間後半はコロナ禍に見舞われ、調査活動や研究会活動に多少の支障を来したが、その都度方法を再考することによって研究活動自体は継続することができた。上に挙げた個々の成果は研究メンバーがそれぞれ継続して発展させることになるが、本研究の一段落として、成果をまとめて公表すべく、準備を進めている。

2020年8月

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