サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 学問の方法としての研究者越境マインドの考察

研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2019年度

学問の方法としての研究者越境マインドの考察

京都大学学際融合教育研究推進センター 准教授
宮野 公樹

1. 研究目的

今日、専門主義のもと、学問はズタズタに切り裂かれている。それに対抗しようと分野を結合、統合させようというのは一つの運動だが、それは大学(学問)として本当にまっとうであろうか。本来一つだったものを熟慮なき高度化の名のもと、研究者自らの手で分野を増殖。そしてまたそれをつなげようとするのは、果たして熟慮ある営みといえるだろうか。

では、足らなかったものは何かと問われるなら「全体を意識しない専門は、専門ではなく単なる個別」の一文に極まるとみる。本研究は、この忘れ去られた「全体」について、分野を超えて議論し何かを掴みたい!とするものだ。果たして、その「全体」とは何か? その「全体」において各分野はどこにどう位置するのか? 各分野の学問性を調査・考察し、できれば、そこに本来の学問精神(しいていうなら、ここでは不可知への構えと挑戦)を我々研究者のうちに呼び起こし、本来の方法で学問を守りたい。

2.活動状況

○2019年10月28日@中部大学にて、本申請メンバー+若手研究者(社会学、哲学)を交えて、あえて分野間で意見が割れそうなテーマで研究会を実施

→ 新参研究者から「こんな遠慮のない意見のやりとりのの研究会は初めてです!」と言われて、メンバー一同に衝撃が走った。

○2019年10月29日@京都大学 その研究会の振り返り研究会を研究者+企業人53人で実施

→ 研究分野における研究者の育ちかた・育てられ方について思いを馳せた…

○2020年1月17日京都大学学際研究着想コンテストにて発表およびポスターセッション

→ 各分野とは研究者の中にて「一つ」となるのものではないか、というコメント

○全分野結集型シンポジウム「学問の評価とは?」を開催

→現地パネル登壇研究者12名、ZOOM参加41名、YouTubeライブ視聴91名。クラウドファンディングも実施し、達成率140%を超える1,149千円を獲得。また、5件のWEB記事掲載を得た。

○上記シンポジウムの振り返りを公開研究会形式にてオンライン実施

→本申請メンバーと一般参加者合計41名。

3. 得られた知見と当初の目論見と違ったこと

分野間の学問性について比較するはずが、そもそも研究者が語る「学問」は「学問観」であったと気付いた。例えば、「私は学問とは、吹けば消える泡のようなものだと思うのです」といった曖昧な学問観は本研究の対象ではない。したがって、各分野における「よい研究とは?」や「面白い研究とは?」という質問から議論を深める必要があることがわかった。シンポジウムでは、リアル登壇者だけでなくZOOM参加者もチャット上で意見交換を行い、Youtubeのライブストリーミング配信を見た参加者の感想もTwitterの「♯gakuseka」に寄せられた。それらの結果、面白い研究とよい研究の違いは、強いて言うなら世の中で役立つかどうかにあるが、学問は本来役に立つというレヴェルで行なわれるものではなく、客観的価値というよりむしろアートと同じように価値基準は自己内にあるもの、と再認識した。

2020年8月

サントリー文化財団