成果報告
2019年度
国際的な企業不祥事の予防・対応・再発防止に関する基礎理論の研究――グローバル法学の方法論の確立に向けて
- 信州大学社会基盤研究所 所長
- 丸橋 昌太郎
1 本研究は、国内外の研究者、実務家によって、「外交問題」としてとらえられてきた国際的な企業不祥事の対応を、「学術問題」へと転換を図り、その方法論を模索し、外交力ではなく、学術的アプローチによって解決していくことを目的とする。
本研究の魅力は、法学分野において今まで手薄であった国際共同研究と、研究者・実務家共同研究をハイブリッドした「方法論」(以下、「国際研究者・実務家共同研究」とする)を試行することで、今までにない実務に直結する「グローバル法学」の未来を切り開くことが期待できる点にある。諸外国の制度分析は、従来の法学においてその方法論(比較法)を発展させてきたが、比較法は、あくまでわが国の制度設計のために参考するという一方向のものであった。本研究が目指す「グローバル法学」は、すべての国が文化や法制度の違いを乗り越えて、共通して従う法規範(ルール)や解決方法論を学術的に形成する双方向のものである。このような双方において参考にされる学術的な方法論を確立することができれば、個別事案の解決も、外交問題ではなく、学術問題として発展していくことになろう。
2 研究期間中に、当初予定通り、イギリス、アメリカ、ブラジルの3カ国4回にわたり、次の国際セッションを開催した。
これらを通じて共通して得られた知見は、各国の具現化過程は異なるものの、各国に共通する基礎理論(グローバル法学)構築は十分に可能であるという点である。特に、本研究は、弁護士依頼者間秘匿特権を中心に検討した。権利放棄や選択的放棄の問題は、具現化過程の問題と位置付けることができ、その背景にある基礎理論(考え方)に大きな違いはないことが確認できた。
一方で、イギリスとアメリカは英米法として一括りにされることが多いが、法の基礎理論の具現化過程は大きく異なり、両国においても共通する基礎理論の構築の必要性が高いというべきである。
各国の制度の背景にある共通する基礎理論を構築することができれば、たとえばグローバルにまたがる不祥事案件の対応等においても、その基礎理論にしたがって行動をすることで、ある国での対応がある国で不利益に扱われるということは十分に避けられる。やはりグローバル法学の方法論の確立は、きわめて有益であるといえよう。
3 本研究は、グローバル法学構築のための方法論の確立を目指すものであるが、その可能性を確認するにとどまり、具体的に確立できたわけではない。また、たとえば、今まで、Charge=起訴と理解されてきたことを見直す必要性もあるように思われた。これらは、今後の課題としたい。
2020年8月