成果報告
2019年度
1970年代における「若者」表象の研究――政治の季節と大衆消費社会のはざまで
- 立命館大学産業社会学部 准教授
- 富永 京子
1.研究目的
本研究は1970年代の若者文化を代表するメディアとして読者参加型雑誌の分析を通じ、「政治の季節」「対抗文化」として特徴づけられる1960年代の若者文化が、いかなる持続と変容を遂げて1980年代以降の政治的・社会的事柄に対する無関心へと展開されたのかを解明する試みである。メディア論の先行研究は「消費社会化」が若年層の政治的無関心へと結びついたと主張したが、それはあくまで部分的な議論に過ぎないのではないか。
若者が社会運動や政治への忌避感や距離感を抱くうえで、メディア上での相互行為が重要な役割を担った実態は、明治期にも観察されている(木村直恵,1998『青年の誕生』新曜社など)。そこで申請者らは、明治期の青年文化とメディアの関連と1970年代の読者参加型雑誌を対比することで、1970年代における若者文化の変容を辿ると同時に、消費社会における「若者」表象の特質をより明確にしたい。
2. 得られた知見
本研究プロジェクトでは『ビックリハウス』創刊から休刊にいたるまでのコーナー編成と投稿内容を「ジェンダー」「カウンター・カルチャー」「政治・社会運動への関心」「他者との関係構築」から分析した。1970年代から1980年代へと時が進むにつれて、上述した政治的・社会的事柄への態度は大きく変容していく。第一に、戦争やロッキード事件、学生運動やウーマン・リブといった政治的な出来事が過去のものとされ、距離をとって笑いや日常会話の「ネタ」にされてしまった点である。第二に、エコロジー運動やウーマン・リブ運動の成果のみが享受され、その対抗性は忌避された。ここから1980年代以降社会運動への忌避が生まれ、エコロジーやフェミニズムの理念が極私的な領域でのみ享受されたことが明らかになる。こうした二つの変遷は、先行研究が明らかにしたものとは異なる政治的・社会的事柄への無関心の源泉と言えるだろう。
3.進捗状況、今後の予定
現在、1誌に投稿論文が掲載され、2誌に投稿中、さらに本年中に2誌の日本語雑誌への投稿を予定している。未着手の分析としては、メディアミックスの起点としての雑誌、さらに雑誌を通じた同世代のネットワーキングのための空間形成が挙げられる。この点に関しては、『ビックリハウス』の主要な担い手によるテレビ・ラジオ出演データや、日本史における誌友交際研究や、社会学・歴史学における読者研究・読書論をさらに検討したい。これらの研究をまとめる理論としてカルチュラル・スタディーズの文献渉猟を行った上で、最終目標である書籍を刊行する。
2020年9月