成果報告
2019年度
デジタル民主主義と選挙干渉:日本・アジアにおける選挙干渉のリスクと脆弱性
- 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授
- 土屋 大洋
1.本研究の背景
公正な選挙の実現は民主主義の根幹である。しかし、2016年の英国のEU離脱に関する国民投票、米国大統領選挙、2017年の仏大統領選挙、独連邦議会選挙、2018年台湾統一地方選挙等では、外国政府からの選挙干渉が確認された。選挙干渉は単に特定の政党や候補者の当落を狙ったものだけではなく、社会の分断、民主主義や政治制度自体の信頼性・正統性を揺るがすものであった。
発展途上国等では投票所襲撃、候補者殺害等の選挙妨害が確認されているが、民主主義の基盤である選挙や民主主義という理念自体がデジタル空間を利用した種々の干渉によって脅かされるという事態は、おそらく先進民主主義国が初めて経験する事態であって、その実態の解明と総合的な対策の実施が急務になっている。
2.本研究の概要
本研究は、実際の選挙干渉の狙い・具体的な手法・影響を考察することを通じて、選挙プロセスの電子化・インターネット利活用(民主主義のデジタル化)が進展する中、必然的に高まるリスクや脆弱性を特定し、低減策を検討することである。ここでいうリスクや脆弱性とは外部起因のもの(外国政府による作為的行為・選挙干渉)であり、本研究では特に中華人民共和国による台湾への影響力行使を扱った。
3.研究活動と成果
本研究プロジェクトは計8回の研究会(オンラインを含む)を開催し、4名のコアメンバー(専門:選挙・政治制度、情報法、現代中国政治、安全保障等)および外部専門家(専門:台湾政治、台湾外交、サイバー脅威インテリジェンス等)による報告・議論を重ねた。また、2020年1月の台湾総統選挙・立法委員選挙については現地調査・資料収集等を行った。
上記の研究活動を通じ、①台湾総統選挙・立法委員選挙における選挙活動・選挙プロセス(特にソーシャルメディアの利活用)、②中国による台湾選挙干渉におけるデジタル干渉の位置づけ(伝統的な干渉手法との相互作用等)、③台湾政府による対策・対抗措置等の知見を新たに得た。これらの新たに得られた知見はコアメンバーによる5本の論説・レポートとして公開された。
4.今後の予定
本研究プロジェクトは、引き続き台湾総統選挙・立法委員選挙(2020年1月)に焦点を当てつつ、香港立法会選挙(2020年9月)、米大統領選挙(2020年11月)への干渉等を調査・分析することで、日本を始めとする民主主義国家への含意を得たい。
2020年7月
※現職:慶應義塾大学総合政策学部学部長