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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2019年度

米中関係の新展開と東アジア国際秩序の変化

政策研究大学院大学 教授
竹中 治堅

本研究は中国の台頭に米国が警戒感を高める中で東アジアの国際秩序がいかに変化しているのか明らかにするため中国、米国、日本、フィリピン、ミャンマー、インドネシアに焦点を当てて、近年の各国の同地域に対する対外政策を分析した。これまで各国の政策について次のことが明らかになった。

中国は安全保障、経済、技術の三面で大国として台頭し、2049年までに「社会主義現代化強国」となる目標を掲げ、「中国の特色ある大国外交」を推進している。「大国」を「世界の平和の問題に影響をあたえる決定的な力」と定義し、「力」(パワー)の拡大に取り組んでいる。中国は、2015年に発表した第13次五カ年計画で「制度性話語権」(Institutional Discourse Power)という概念を提起し、国際組織や国際制度における議題設定権や決議権の強化を目指している。その具体的取組が「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行の設置であり、深海底、サイバー、極地、宇宙など新領域における国際制度の構築での積極的な活動である。国内においては、「大国外交」を推進するために必要な外交にかかる政治過程の改革に取り組み、習近平国家主席のもとで政策決定の集権化が試みられている。しかし、中国が対外政策を立案する過程で党、国務院、軍、全人代など多様なプレーヤーが関与し、その結果として、党と国務院の分離は続いており完全な集権化は難しい。

米国は米中国交正常化以降の対中アプローチを抜本的に変えようとしている。この要因として、中国の軍事的、経済的台頭に加え、先端技術開発の進歩が米国の優位を崩しかねないという警戒感を高めていること。大統領は中国を相手に経済交渉路線を追求してきたのに対して、安全保障官庁(国防省、国務省、商務省産業安全保障局など)は技術覇権競争と地政学的競争を繰り広げてきた。また、連邦議会はこれまで中国に対する体制批判の先頭に立っていたが、最近では国務省やホワイトハウスも情報戦の一環で体制批判を先鋭化させている。

日本は中国の「一帯一路」構想を意識しながら2016年以降、「自由で開かれた太平洋」構想を推進し、インド太平洋地域の各国とインフラ開発を中心とする経済協力と能力構築支援などの安全保障協力を推進している。「自由で開かれた太平洋」構想を打ち出すことができた背景には国際環境の変化に加え、国内政治状況が変化したことが大きい。すなわち1990年代以降、94年の政治改革や2001年の省庁再編により首相の指導力が高まり、各省を横断する政策を主導することが容易になったためこのような構想を打ち出すことが政治的に可能になった。

フィリピンは1990年代以降、中国の台頭を経済的機会と安全保障上の脅威の両面から認識し、中国への接近と対立を繰り返してきた。他国と比較して特徴的なのは、国際法や国内における法執行部門の拡充など、非軍事の手段で自国の国益を主張してきた点にある。海上法執行に必要な海上認識能力(MDA)の能力構築や沿岸警備隊の能力構築については、米国や日本からの支援を受けながら継続してきた。

ミャンマーでは軍事政権下において、中国の経済プレゼンスは拡大した。特に2000年以降はインフラ開発を中心に中国依存が加速した。しかし、結局多くのプロジェクトは失敗し、経済成長に結びつかなかった。ミャンマー軍政内では中国への過度の依存に対する懸念と不満が高まり、2011年の民政移管をきっかけに中国の大型プロジェクトを凍結するなど中国と距離を取るようになる。その一方で、米国との関係改善を目指した。これを契機に、中国はミャンマーに関係するプロジェクトを「一帯一路」構想下の中国ミャンマー経済回廊(CMEC)として整理・統合した。中国はプロジェクトや借款の条件についてもミャンマー側に譲歩し、スーチー政権下で再度合意、実施することになった。

インドネシアは、経済成長の第一のエンジンとして海外投資を戦略的に重視したことから、インフラ、エネルギー、鉱業部門にこれまで中国投資を積極的に誘致し、中国側の一帯一路戦略との親和性を高める努力を重ねてきた。ただ、電力網や高速鉄道建設における問題や、中国人労働者の違法労働、ナツナ諸島の問題が顕在化したことで、以前の対中積極策は修正を迫られている。

2020年9月

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