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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2019年度

ソーシャル・ファイナンスを促進する制度的基盤に関する比較研究――東アジアにおけるエコシステムの構築に向けて

学習院大学国際センター 准教授
小林 立明

1.研究の目的

従来、社会・環境課題の解決へのファイナンス手法は、政府補助金、財団助成金、および金融機関のローンが一般的だった。しかし、社会的企業やソーシャル・ベンチャーなどの新たな事業者の登場に伴い、近年、社会的インパクト投資という新たな手法が発展している。また、予防型介入を重視するソーシャル・インパクト・ボンドのような革新的な手法も発展しつつある。本研究プロジェクトは、先進諸国における20世紀型福祉国家モデルの変容と、新興国における中間層の台頭、開発途上国における開発援助手法の変化などに伴い、グローバルなレベルでファイナンス手法の革新が求められる現状を踏まえ、これをソーシャル・ファイナンスという枠組みで分析し、発展のための制度的基盤を研究者・実務者の対話を通じて探求しようという試みである。

2.研究の進捗状況

今年度は、全8回の公開研究会を開催した。取り上げたテーマは、「ブロックチェーンを活用したソーシャル・ファイナンス」、「ソーシャル・バンク」、「SDGファイナンス」、「ファンドレイジング」、「クラウドファンディング」、「リテール型インパクト投資」、「社会起業のためのファイナンス」で、各分野の最新動向を概観し、この発展に求められる制度的基盤を分析した。また、東アジアにおけるエコシステムの現状を調査するため、研究プロジェクトのコア・メンバーが、アジア・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワーク年次総会に参加し、主に韓国、台湾、香港、シンガポールにおけるソーシャル・ファイナンスのキー・プレイヤーと対話するとともに、インパクト投資が急速に発展している韓国の現地調査を行った。

3.研究で得られた知見

本研究期間中にソーシャル・ファイナンスを取り巻く環境は大きく変化した。グローバルな金融市場では、インパクト投資の標準化が進められると共に、国連環境計画や国連責任投資原則の主導の下、グローバルな準拠枠組みとしてインパクト・ファイナンスが提案され、また国連責任銀行原則が開始された。SDGファイナンスの標準化も進展している。今後、グローバル金融は、直接金融、間接金融の双方において、社会・環境インパクトを経営および開示・報告に統合する動きが加速していくだろう。アジアにおいても、シンガポールに拠点を置くアジア・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワークを中核に、インパクト投資やベンチャー・フィランソロピーが急速に拡大しつつある。日本では、休眠預金資金の活用が2019年度から本格化し、政府も成果連動型民間委託契約(PFS)を推進しており、今後、ソーシャル・ファイナンスが発展することが期待される。他方、日本における発展のためには、グローバル・ネットワークへの参加、ソーシャル・ベンチャーの発展段階に応じた支援体制の整備、政府・財団による投資リスク軽減のための資金供給、ソーシャル・リターンの設定・モニタリング・評価・報告に関する指標と手続きの標準化などの制度整備が必要である。このための政府・財団による積極的な関与が求められる。

4.今後の課題

研究会については、多摩大学社会的投資研究所主催セミナーとして継続し、SDGs、仮想通貨、投資型クラウドファンディングなどの多様なトピックを取り上げていく。また、新型コロナウィルス感染拡大で延期となっていた国際シンポジウムも年度内には開催したいと考えている。

2020年9月

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