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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2019年度

eスポーツ倫理の構築に向けた対戦型ビデオゲームの文化と規範の研究――スポーツ倫理学とゲームスタディーズの架橋

広島大学大学院文学研究科 助教
岡本 慎平

本研究は、ビデオゲームの対戦を制度化して一種のスポーツ(eスポーツ)とみなそうとする動きに着目して、「eスポーツ倫理学」という学際的新領域の構築を目指す第一歩として、哲学や社会学の垣根を超えて、「倫理」と「ビデオゲーム」を共通項としたワークショップを開催し、議論の枠組みを作り上げようと試みたものである。

本研究助成の支援により広島大学東千田キャンパス(9月4日)と立命館大学衣笠キャンパス(12月18日)でそれぞれ研究ワークショップの実施に成功した。とりわけ立命館大学ゲーム研究センターとの協力関係を築けたのは非常に大きな進展である。フィジカルなスポーツとeスポーツの差異に関する概念的整理、個別のビデオゲームにおける具体的な倫理問題、ビデオゲームユーザーに対する社会調査のサーヴェイ、現在国際的に非常に大きなプレゼンスを示している中国のeスポーツ市場の分析など、本研究グループのメンバーおよび招聘した専門家の講演発表をふまえた多角的な討論が実現した。

また、研究大会自体は中止となったが4月25日/26日に開催予定であった応用哲学会においてeスポーツとビデオゲームの倫理に関するワークショップを企画し、3月から6月13日に延期となった京都生命倫理研究会においては、ビデオゲームへの倫理的批判の背景の分析やeスポーツに固有の倫理問題について一定の提言を試みた。これらの活動内容の一部は研究会ウェブサイトで公開している。

「研究者間のネットワークの構築」という点ではある程度の成功を収めた一方で、論点が多岐に亘るため、研究者間でのシナジー効果が十分に発揮できたとは言い難い状況にある。しかし現在、特定テーマに関する共著論文の執筆を予定しており、これによりこれまでの研究活動における成果をまとめることが期待される。また本研究テーマが現実的に極めて重要な時期であるため、市場の展開が速すぎるという側面がある。ネガティブにいえば、その全体像を追いにくいということではあるが、逆に言えば、さまざまなことに影響を受けて変化を見せているeスポーツの現実の状況は、我々の研究成果が現実に影響を与える余地も大きい状況であるため、本研究を実施することの価値を逆説的に示していると言えるだろう。

2020年8月

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