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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2019年度

電子地域通貨Tarcaを用いたヒト・モノ・カネの地域内循環の包括的研究

小樽商科大学 副学長
江頭 進

課題

地方経済の一つの問題点は、地域内でモノとカネが回らないということにある。地域内での需給が増加しないために,仕事がなくなり,結果として人口が減少する。しかし,現在,人の動きは,住民登録の調査で毎月報告されるが,モノとカネの動きに関しては,年一回しかも,時期的には1年近く遅れてしか把握する方法がない。消費税の増税や新型コロナウィルス感染拡大による影響は,事後的にはアンケート等で把握されるが,データを収集したときにはすでに手遅れの感が否めない。

本研究課題では,電子地域通貨を利用して,地域内のモノとカネの動きを,さらに細分化されたサブ地域レベルでリアルタイムに観測するシステムを構築することを目的としている。小樽の地域通貨Tarcaは,日本で2番目に導入された電子地域通貨であり,これまで短期間の実験が行われてきたが,本研究課題で無期限導入を計画している。

成果・実際

本研究助成を利用して,電子地域通貨システムの改修を行い,ブラウザーベースにするとともに,新規機能として寄付機能とオプトアウト機能を実装し,2019年11月に納品された。今回の最初の導入対象を,飲食店が集中する小樽市花園地区への観光客誘致とし,12月には北観協社交組合小樽支部の副支部長と打ち合わせを行い,同意を得た。

しかし,2020年1月頃から北海道でも新型コロナウィルスの感染が拡大し,3月には北海道独自の非常事態宣言が出された結果,市内飲食店も自粛や閉店が始まり,事実上導入の作業が停止してしまった。それでも,コロナ期の飲食店支援として,計画を進めていたが,6月花園地区のスナックでクラスターが発生したため,花園地区への導入は延期となっている。

それに代わる代替案として,現在クラウドファンディングにより資金を調達してプレミアム付Tarcaの発行の準備を行っている。これは観光客が激減した小樽の商店街を支援するために,市内での需要を促進することを目的とする。プレミアム付き商品券形式の地域通貨は,通常の商品券方式よりも,複数回循環するために乗数効果が働き,市内のモノの動きをより活発化する。8月25日には,北海道財務局への前払い支払い手段登録を行い,無期限流通できることとなった。

いまだに感染症の収束が見えないため,当初の計画が大幅に遅れているが,安全を確保しながら制度構築は進んでいる。また,小樽市教育庁からは,Tarcaを用いた高齢者のスポーツ振興策の打診を受けており,自治体との協力体制も進んでいる。今後は,当面はwithコロナ期の市内経済循環促進の枠組み構築を行い,循環率の向上を図りつつ,データの収集と分析,そして地域内のネットワーク再生の手段としての効果の測定をおこなう予定である。

2020年8月

サントリー文化財団