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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2019年度

和食の国際化に伴う食哲学の変容・再構築

京都産業大学経営学部 准教授
井村 直恵

■研究目的
本研究の目的は、外国人(観光客)が求める和食と日本人の和食観の相違を分析し、和食の産業としての価値観を明らかにすることによって、和食文化の国際化における概念再構築のプロセスを解明し、さらには和食を海外展開する上で有効な戦略を明らかにすることである。
この目標を達成するために、2つの活動を実施した。

■研究活動と成果
(1)まず、8月から2月にかけて、京都市内、米国(デトロイト、シリコンバレー及びサンフランシスコ)、豪州(アデレード)、欧州(バスク地方)等で和食店への聞き取り調査を実施した。聞き取りの対象としたのは主に日本国内では懐石料理を中心とした日本料理の店舗、海外ではJapanese Restaurant及び料理人が和食から何らかのインスピレーションを得た点(旨味、メニュー構成、季節感等)についてなどを言及している店舗が中心である。和食の店舗を海外で展開する場合、料理人の過去の料理人経験(修行経験)が料理店の戦略やデザインを決定する上で大きな影響を与えていることと同様に、中心顧客の文化経験の幅も料理店の戦略やデザインに影響を与えていることが明らかになってきた。聞き取り調査の結果を踏まえ、2月に経営学、情報学、京都文化論の研究者に加えて、料理業界の専門家を集めてシンポジウムを開催した。意見交換の結果、観光客の期待値を形成する要因(誘因)は、地元顧客とは異なり、個別店舗の経営戦略と齟齬が生じやすいという仮説を立てた。
(2)次に、この仮説を検証するために、11月末に和食料亭の協力のもと、観光客と地元顧客間での、店舗内での具体的な行動(視線や会話内容等)の違いを探る調査を実施した。コロナ禍において観光客を見つけることが困難であったため、観光客の代わりに料亭への馴染みが薄い外国人留学生に参加してもらった。この現地調査では、顧客が店舗の内装や料理を含め、何に着目し、どのような食体験をしているかを詳細に分析するために、全ての顧客にアイトラッカーを装着して店内食事を行ってもらった。合計36人(1日当たり6組を3日間、うち6組が外国人)の顧客が参加した。なお、手指や情報機器(アイトラッカー、ビデオ・ボイスレコーダー)の消毒、食事前後のマスクの着用、など、新型コロナウイルスの感染防止のために細心の注意を払った。 図:アイトラッカーを装着した顧客の視界・視線(下の左図と右図)
と俯瞰映像(上)

本調査から、和食に対する馴染みの薄い外国人顧客は、地元顧客と比較して、料亭の外装や内装、店内の雰囲気を重要視する傾向にあることがわかった。高級料亭においてマナー違反を行っていないか気にする傾向が強く、箸を取るタイミングや食べる順序など、他の顧客の食事作法に頻繁に視線を送る様子が観察され(図)、顧客の文化的背景の違いが料亭での和食体験に大きな影響を及ぼすことが確認された。

■今後の展開
視線データの分析には多大な時間を要する。現在、これまでに得られた知見を補強するために、(I)顧客間(ペア内)の視線の相互作用と、(II)ペア間の視線の相互作用(他のペアの食事を観察する動作)、さらに、(III)料理人と顧客の視線の相互作用について、詳細な分析を行っている。この後、経営学および情報学の専門家とのディスカッションを経て、成果を投稿論文にまとめて刊行する予定である。

2021年3月

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