成果報告
2019年度
在外邦人の保護、輸送、救出を巡る理論と実務
- 防衛大学校人文社会科学群 准教授
- 石井 由梨佳
(1)本研究の目的及び計画の実施
本研究は、在外邦人の保護、輸送、救出に関して、どのような法的、政策上の課題が存在し、それらの課題をどのように克服すべきかを学術的に検証するものである。具体的には①在外邦人の保護と輸送について定めた自衛隊法84条の3・4を中心とした、在外邦人の保護、輸送、救出の憲法上、国際法上の評価、②主要外国(米国、英国、ドイツ、フランス)との法制の比較、③朝鮮半島有事(日本人約4万人が在留)、台湾海峡有事(日本人約2万4000人が在留)が生じた場合の政治的課題及び運用上の問題点に取り組んだ。
特に③に関しては、第1に、韓国での現地調査として、メンバーの一部が主要な港湾、飛行場の視察を行い、韓国の政府関係者や在韓日本大使館職員へのヒアリングを行なった(2019年8月)。第2に、台湾での現地調査として、メンバーの一部が台北の港湾と飛行場、及び高雄における港湾視察を行い、日台の政府関係者や研究者へのヒアリングを行なった(2019年10月;2019年12月)。
また、研究打ち合わせのために2019年10月と2020年2月に研究会を実施した。
(2)研究成果
上記の計画実施により、在外邦人の保護、輸送、救出に関して、どのような課題が存在し、それらをどのように克服すべきかについては一定の検討を行うことができた。特に、在外邦人の保護等が必要となる緊迫した状況において自衛隊がどのようなオペレーションを取り得るのか、取ることを計画しているのかについては、ある程度精確な現状認識を得ることができた。また、朝鮮半島有事と台湾有事が生じた場合に、現地にどのような法制とインフラがあるかは、実地調査を行い、関係者のインタビューを重ねることによって、想定されるシナリオや課題をある程度明らかにできた。その成果の一部は宮本悟「朝鮮半島有事における在韓邦人の退避はどうするのか?」『日経ビジネス』(2020年3月31日)として公にしている。
もっとも、研究実施においては次の困難もあった。第1に、特に重要影響事態あるいは武力攻撃事態の認定がされた状況で邦人救出を行う場合の自衛隊の対応は殆ど公にされていない。本研究ではアクセス可能な情報を幅広く集め、かつ、実務家との率直な意見交換を通じて精確な現状認識に努めたが、そもそも日本政府の見解が定まっていない論点もあることから、想定されるシナリオを完全に分析をすることはできなかった。
第2に、朝鮮半島と台湾有事においてはそれぞれの現地政府が自衛隊による保護等の措置にどのように対応するかによって自衛隊の行動範囲が変わってくるが、韓国政府と台湾政府が想定しているシナリオについては明らかではない点も多い。そこで、本研究では韓国と台湾において実地調査を行い、関係者のインタビューを重ねることによって、検討の精度を高めることに努めたが、韓国の行政安全部等、面会を断るところもあり、望んだだけの情報を得られたわけではなかった。
(3)今後の課題
本グループの研究は2020年度も助成対象に採択された。今年度は在外邦人の保護、救出について日本が受入国以外の外国政府とどのように協力を強化するか、日本にいる外国人の救出を望む外国政府にどのように対応するかを、法的側面、政策面、運用面から多角的に検討することを予定している。
2020年8月