成果報告
2019年度
夜―都市―音楽の探索的研究:都市政策・地理情報・フィールドワークを活用したインターディシプリンな取り組み
- 筑波大学芸術系 助教
- 池田 真利子
東京五輪(2020年)や大阪万博(2025年)に代表されるメガ・イベント開催を契機として,都心中心部の再開発やインフラ環境の再整備が進められている。2010年代半ば以降は,増加の一途を辿るインバウンド観光客の消費額を増加させるねらいで,東京都にてナイトライフ観光の促進に係る事業が開始され,また2017年からは観光庁にて「観光ビジョン実現プログラム」に夜間観光(ナイトタイムエコノミー)が盛り込まれ,「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(2019年3月)および「夜間帯を活用した観光コンテンツの造成に向けたナレッジ集」(2020年3月)が公開されるに至っている。観光庁が中核を担いながらも,文化庁・環境省の官庁の垣根を超えた協働も都心部において実現しており,またその中心には夜に顕在化する「音/音楽」と「光/闇」の利活用もある。また,大阪市では大阪メトロの終電時間延長も企画され,都市の規模や産業構造,地域的文化と関連しながら,夜の時間-空間の再編が進みつつある。
国および都市行政の夜の利活用への動きの前段階として,2010年代にはIR推進法整備や風営法の改正(ダンスを巡る法的整備とクラブ営業の合法化)が施行された。とりわけ後者は,夜間から早朝時間帯の経済活動(特に消費行動時間帯としての重要性)の評価のもと,ダンスを巡るモダニズム的規制の在り方を変え,また実務者が中心となって夜の時間-空間を「規制」から「統治(ガバナンス)」へと変える契機となった。また,こうした動きはグローバル都市間の関係性の強化と関係しており,例えば東京都はニューヨーク,ロンドン,パリの3都市を参考に「ナイトタイムエコノミー(夜間経済)」の政策を検討したように,いわゆるグローバル都市においてそうした動きが明確化しつつあるといえる。他方で,海外都市の動向を参照すると,ヨーロッパ型の「夜の市長(Night Mayor)」や「夜のマネージャー」のように,夜のガバナンスを担う人物や機関の重要性も近年明らかとなっている。
観光庁に代表されるように「官民連携」が明文化されるようになって久しいが,夜の時間-空間を巡る「学(アカデミズム)」の役割は何かを考えることが,本研究の最大のねらいである。「ヨーロッパ」では,夜を巡り生じてきた様々なコンフリクト(宗教と飲酒,騒音と地代上昇)を解決するために行政や企業とは異なる第3の機関を自発的に整備し,労力と経済的負担を厭わず調整を継続してきた。そこにはローカルのストーリーがある。こうしたグローバル,ナショナル,リージョナルそしてローカルの変化をみるうえで,官民学が政策,現地調査,GISにおいて連携し,若手主体の課題追求型のグループを組織し,世界において同様の取り組みを行う研究グループと連携をとりながら探索的研究を進めている。
なお,世界的に拡散したCOVID19により,クラスターとして批判の矢面に立たされている「夜の街」や,経営が困難となった音楽空間(クラブ・ライブハウス)の研究も実施している。こうした経営の困難な状況において,音楽は地方都市や自然地域へと舞台を変化させている。本年度はコロナ時代における音楽を中心とした研究へとテーマを発展させて,研究を実施予定である。
2020年8月