サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 中国内戦をめぐる国際政治――米ソの対中軍事支援の比較研究

研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2019年度

中国内戦をめぐる国際政治――米ソの対中軍事支援の比較研究

東北大学大学院法学研究科 教授
阿南 友亮

1911年に勃発したいわゆる「辛亥革命」を皮切りに、中国は約40年におよぶ内戦に突入した。中国内戦における中国共産党の勝利に対しては、ながらく「革命」という評価が付与されてきた。

共産党の軍事的勝利を「革命」と呼ぶ根拠は、これまで農村部における社会改革に見出されてきた。つまり、共産党主導の改革が農民の支持拡大につながり、それが共産党の軍事力の増強をもたらしたという認識に基づき、共産党の勝利は社会改革の産物であり、それ故に「革命」という評価に値するとされてきたのである。

ところが、1990年代以降、日本、欧米圏、そして中国において、こうした社会改革およびそれを契機とする農民の軍隊への動員が決して容易ではなかったことを明らかにした研究成果が相次いで発表されるようになった。それに伴い、改めて中国内戦における共産党の勝利の要因について検証する必要性が浮上した。

本研究の目的は、内戦のもう一方の当事者であった中国国民党、また、内戦に深く関与していたアメリカとソ連の機密資料の調査をつうじて、内戦の帰趨を決定したメカニズムを再検証する点にある。本研究では、台湾の国民党・党史館および国史館、アメリカの国立公文書館、ロシアの国立社会政治史文書館、旧ソ連共産党文書館、国立軍事文書館に保管されている資料を主たる調査対象とした。

新型コロナウイルスの感染拡大により、海外資料調査は大幅な見直しを余儀なくされた。しかし、実施することができた調査から、中国内戦におけるソ連による中国共産党への支援が従来の通説よりもはるかに踏み込んだものであったこと、また、米国が支援した中国国民党の精鋭部隊の編制過程において後の苦戦を招く様々な負の因子が埋め込まれていたことなどを明らかにした。これにより、中国内戦の帰趨にはこれまでの想定以上に米ソそれぞれの対中戦略および両国間の駆け引きが大きく作用していたことを浮き彫りにすることができた。

資料調査に基づく具体的な研究成果は、2020年6月7日に開催されたアジア政経学会春季大会の部会「冷戦の幕開けと中国内戦:1940年代における米ソの対中軍事支援の意図と実態」において発表した。

2020年8月

サントリー文化財団