成果報告
2019年度
20世紀後半の社会運動史資料の収集・整理・展示活用にかかる学際研究:散逸の危機にある現代史資料を守るための手法開発
- 長野大学環境ツーリズム学部 准教授
- 相川 陽一
1.研究の背景と目的
20世紀後半、なかでも1960年代から1970年代にかけての日本社会では、ヴェトナム戦争、軍事基地、公害、大規模開発、大学管理の強化等への異議申し立てが各地で展開された。このような現代の社会運動にかかる資料の収集・整理・保存・展示・研究活用を行う機関は国内に点在し、多くの機関が運営上の困難を抱えながらも、資料の寄贈者、研究者、地域住民と結びついて、社会運動の記録と記憶の守り手となっている。これらの史資料内には価値判断が先行した議論に傾きがちな戦後日本の社会運動史研究を冷静に行うために必要不可欠な一次資料が数多く含まれており、代替不可能な価値を有している。このような背景をふまえ、現代の社会運動資料へのまなざしとその置かれた社会的諸条件を解明し、各地の社会運動アーカイブの取り組みをもとに、20世紀後半の社会運動資料の収集・整理・保存・活用の手法を開発することが本研究の主目的である。
2.得られた知見
継続開催した研究会やアーカイブへのインタビュー調査から、20世紀後半の社会運動資料の特性をふまえた資料の収集・整理・保存・活用の各段階に、解決すべき多くの課題が存在することが明らかとなった。
第一に、20世紀後半の社会運動資料は、前後の時期(戦前期、21世紀)と比べるとモノとしての物量が多い。20世紀後半は、言論の自由のもと、簡易な印刷技術の普及や大衆教育社会化に伴って、各地でビラ、パンフレット、小冊子、ポスターなどの資料が大量に発行された。相応の受け入れ態勢を整える必要があるが、公設の歴史館や文書館等で現代社会運動資料の収集・整理・保存等の動きが活発化しているとは言い難い。
第二に、歴史資料は一般に資料が生み出された現地での保存原則が重視されているが、20世紀後半の社会運動を担った人々の高齢化や物故に伴い、私的な現地保存はますます困難な状況になっている。都市の社会運動では、世代継承を前提としない家屋内で資料が保存されることも多く、無住化や家屋解体による資料滅失の危険は増している。農山漁村の住民運動資料も、過疎化の進行により無住化や土蔵の管理放棄が起き、現地保存の継続は困難がある。このような社会条件の変化は、資料の災害への脆弱性も増幅させる。以上をふまえると、保存を最優先する視点に立つとき、資料の現地保存の原則を再考せざるを得ないことも考えられる。
第三に、数の上で多いとは言えない国内の現代社会運動アーカイブに、20世紀後半の社会運動資料の寄贈が増加し、受け入れ困難となることが予想され、資料整理の担い手や手法を根本から再考する必要がある。いわゆる「団塊の世代」の高齢化が進む中、散逸を免れた資料がアーカイブに寄贈される例が増えているが、運営基盤が盤石とは言い難いアーカイブも多く、受け入れや整理の原則も再考する必要がある。
3.共同研究の成果
2019年10月に山形国際ドキュメンタリー映画祭における国際ワークショップにて招待報告を行い、小川プロダクション資料の整理経過等を日本と台湾の映画作家や研究者と共有し、分野横断型の共同研究を促進する機会を得た。翌11月には文書館等のアーキビストと研究者で構成される全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)の大会で研究発表を行った。2020年1月より定例研究会を開始し、2月には現代社会運動アーカイブが複数立地する沖縄県にて複数のアーカイブを訪問してインタビュー調査を行い、伊江村にて約20年にわたり基地問題等に関する資料整理を続けている阿波根昌鴻資料調査会との合同研究会を開催した。
4.今後の研究展開
新型コロナウイルス感染症の流行により、2020年3月より対面式での研究会の開催が困難化しているが、オンライン形態に切り替えることにより研究会を継続している。本研究は、継続採択の機会をいただいており、今後もアーカイブ調査と分野横断型の定例研究会を継続していく。
2020年8月