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研究助成

成果報告

若手研究者のためのチャレンジ研究助成

2018年度

有権者における政治に関する言葉の理解:米国を例に

ジョージタウン大学政治学部 博士課程
小椋 郁馬

研究の概要
 本研究の目的は、アメリカの有権者が「リベラル (liberal)」「保守 (conservative)」といったイデオロギー位置を表す言葉をどのように定義しているかを実証的に明らかにすることにある。通常これらの単語は政策争点に関する立場を表すものとして定義される。しかし政治行動論の先行研究では、有権者がこれらの言葉を辞書的な意味で理解しておらず、むしろ社会集団に関するステレオタイプと結びつけて理解している可能性が指摘されてきた (例:Conover and Feldman 1981; Mason 2018)。そこで本研究では、米国の有権者が「リベラル」「保守」という単語をどのように理解しているかをできるだけ直接把握することを目的とした世論調査実験を行った。以下では筆者が2020年3月末に実施した実験から得られた結果について報告する。

実験の詳細
 本調査では、まず回答者に仮想的な有権者の社会経済的な属性及び政策争点態度についてのプロフィール文を読んでもらった。次に当該有権者のイデオロギー位置( 当該有権者を保守と思うかそれともリベラルと考えるか)を7 点尺度で評価してもらった。
 実験の実施にあたり、回答者を以下の4 つの群に分け、無作為にそれぞれ異なるプロフィール文を割り当てた。(i)「 リベラル」という単語から想起される典型的な社会経済属性(例:低収入の黒人女性)を持ちかつ一貫して左派的な政治的意見を持つ有権者についてのプロフィール文を読む群、(ii) 典型的に「リベラル」な社会経済属性を持つものの一貫して右派的な争点態度を持つ有権者についての群、(iii)典型的に「保守」な社会経済属性( 例:宗教的な白人男性)を持つが一貫して左派的な政治的意見を持つ有権者についての群、そして (iv) 典型的に「保守」な社会経済属性を持ちかつ一貫して右派的な政治的意見を持つ有権者のプロフィールを読む群、である。
 調査にあたっては、Lucid Theorem というクラウドソーシングサイトから計1,600 人の回答者を募集した。

図1

図1

結果
 図1 は回答者による仮想的有権者のイデオロギー位置の評価の平均値を実験群ごとに図示したものである。
 図の縦軸は、数が大きいほど各群の回答者がプロフィールを読んだ仮想的有権者をより保守的であると評価したことを表す。
 本調査実験から得られた結果は、アメリカの有権者が「リベラル」「保守」といった言葉を社会集団に関するステレオタイプではなく、政策争点位置と結びつけて理解していることを示している。図1を見ると、仮想的有権者の社会経済的属性と政策争点態度の党派性が一致していない場合 (実験群(ii)及び(iii))、回答者が当該有権者のイデオロギーを彼/彼女の政治的意見をもとに判断する傾向があったことがわかる。
 本調査の結果は研究の概要で述べたような政治行動論の先行研究に重要な示唆を与えることができるだろう。

今後の研究課題
 世論調査実験を行う場合、実験結果が回答者プールの特性や実験デザインの瑕疵などに影響を受けていないことを確認する必要がある。今後は他の政治行動論研究者からのフィードバックを得つつ実験デザインを見直したうえで、数回の追試実験を行うことを計画している。

 

2020年5月

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