成果報告
2018年度
民俗芸能「エイサー」の創作にみるグローバル化と再ローカル化に関する研究:琉球國祭り太鼓の事例を中心に
- 大分県立芸術文化短期大学国際総合学科 准教授
- 城田 愛
本研究の目的は、沖縄の旧盆で、各地域の青年が舞う民俗芸能「エイサー」に、どのようなアレンジがほどこされ、どのような社会的ネットワークを介して、日本国内および海外の移民先を中心に、グローバルに拡大していくのかを、創作エイサーの代表的団体である「琉球國祭り太鼓」の事例から検証していくことである。
共同研究者は、琉球國祭り太鼓の創設者・演出家である目取真武男氏、久万田晋沖縄県立芸術大学附属研究所所長・教授(民族音楽学・民俗芸能論)、森田真也筑紫女学園大学文学部日本語・日本文学科教授(民俗学・文化人類学)である。
新たに得られた主な知見として、以下のとおり報告する。
エイサーのグローバル化の事例として、城田と共同研究者の森田真也筑紫女学園大学文学部日本語・日本文学科教授が調査した8月5日(日)の「第10回 地球スペシャル エイサー・ページェント 2018」では、スカイプで、海外4支部(メキシコ、ペルー、ブラジル、アルゼンチン)を含む27の各支部が中継で繋がり、代表曲「ミルクムナリ」の同時演舞をおこなった。沖縄系移民の紐帯を土台に、現代的なIT技術やソーシャル・ネットワーキング・サービスなどを活用しながら、グローバルな活動を展開していることが明らかになった。
エイサーの再ローカル化に関しては、琉球國祭り太鼓は、沖縄の各町村の青年会単位で演舞される伝統エイサーを、「汎沖縄的なシンボル」として演出することをとおして、「沖縄文化の琉球化」=再ローカル化・再定義をおこなっていると考察した。
大分支部(2007年結成、60名)では、地元の公立小学校におけるPTAなどのネットワークを介して、地域振興(大分、九州、2016年熊本・大分地震復興支援など)のイベントに積極的に参加している。大分支部は、大分県のゆるキャラが登場するご当地ソング「めじろんダンス」に合わせたエイサーを創作するなど、沖縄と大分の創作舞踊の実践をとおして、小学校区内でのつながりをはじめ、九州各支部との連携をつよめてきている点を知り得た。つまり、再ローカル化には、沖縄文化を再定義・再提示する動きと、沖縄と大分の融合のような新たな地域文化創出の動きがあることが判明した。
2019日5月18日(土)・19日(日)、東京都渋谷区代々木公園内で開催された「OKINAWAまつり in 代々木公園」における目取真武男が演出した琉球國祭り太鼓の演舞を、久万田晋沖縄県立芸術大学附属研究所所長・教授が視察した。会場内は、多くの出店で賑わいを見せるなか、琉球國祭り太鼓は18日・19日ともメインステージでのオープニング演舞(20分)、および彩風ステージにおいて、両日、各3回(各40分)の演舞を繰りひろげた。その中で、通常のステージ演舞にとどまらず、観客側のリアクションによる相互交流的なやりとりも実践された。沖縄県外における沖縄にルーツをもたない演者と観客を多数ふくむ本事例から、創作エイサーが、沖縄文化のシンボル的な位置付けをになっているといえる。
2019年3月9日(土)、城田が調査した「第25回ホノルル・フェスティバル」では、琉球國祭り太鼓ハワイ支部のメンバーが、3・11メモリアルのため、「花は咲く」の沖縄バージョンの曲に合わせ、福島出身でハワイ大学留学中の女子大学生による日舞と共演した。演舞したハワイのメンバーには、2017年夏、いわきハワイ観光交流協会が主催したツアーで、津波で甚大な被害を受けた地域を訪れ、鎮魂のために海岸で「花は咲く」や「海の声」を舞った者もいる。このように被災地への公演ツアーを介して、ハワイ、福島、沖縄とのあらたな関係性や繋がりが編みだされていることが、特徴的といえる。
以上、琉球國祭り太鼓は、ローカルかつグローバルに、独自の活動を展開している。そこでは、民俗芸能の創作をとおした地域活性化、それを可能とする社会状況の変化とネットワークの発展がある。
なお、上記のホノルルにおけるフィールドワークで得られた成果の一部を、2019年9月刊行予定の『太平洋を知るための60章』(明石書店)の「第58章 観光にみるハワイと日本との関わり」として入稿済みである。
今後の課題としては、1972年の施政権返還後の沖縄における民俗芸能が、地域社会、日本本土、移民先ハワイ等との関わりのなか、どのように発展的に創作活動を展開してきたのかを、歴史的および実証的に明らかにする。つまり、文化の越境にともなう地域性の強調・協調の実態、および再ローカル化の過程について、琉球國祭り太鼓の事例を中心に、さらに詳しく検討していく。
2019年8月