成果報告
2018年度
人形劇芸術の多様性の体験とその国際的発信-飯田市における2018年人形劇友好都市会議のアジア初開催を機に-
- 津田塾大学総合政策学部 教授
- 伊藤 由希子
1. 課題と方法
世界各地の人形劇文化を俯瞰すると、そこには政治的な統治や経済的な交易を通じて広域的に伝播した文化と、各地の古来の文化との融合が見られ、多様な特色が出現している。しかしながら、各地の人形劇文化の担い手が、世界の人形劇の多様性を知る機会は多くはなく、そして、各地の人形劇芸術の魅力が国際的に発信される機会も少ないのが現状である。
そこで、本研究では、日本最大規模(約300劇団・約600公演)の人形劇フェスティバルが毎年開催されている長野県飯田市との地域連携の機会を活かし、(1)人形劇文化の多様性の理解、(2)人形劇の共有知を生かした国際交流に取り組んだ。海外からの参加者に向けたプレゼンテーションを行うとともに、日本の人形劇文化の発信に資する多くの共同活動を実施した。
2. 研究の成果①-人形劇文化の多様性を紹介
2018年は「いいだ人形劇フェスタ」40周年にあたり、10年に1度開催される「世界人形劇フェスティバル」の4回目に当たる。また、第7回となる「人形劇の友・友好都市国際協会(AVIAMA)」総会を初めてアジア(飯田市)で開催する機会ともなった。
人形劇フェスタでは世界6大州から23団体が公演を行い、AVIAMA総会には8カ国16都市が参加するなど、国際色豊かな交流の場が得られた。その中で、本学学生らは各地の人形劇文化に関する調査研究の成果を、クイズも交えながらレセプションの場で紹介し、大いに好評を得た。
また、これらの成果を大島・伊藤(2019)及び、大島他(2019)として刊行した他、2019年5月には、国際人形劇連盟日本センター(日本UNIMA)総会でのプレゼンテーションにも招聘された。
3. 研究の成果②-人形劇の共有知を生かした国際交流
調査に当たり取材を行った国内の人形劇団においては、海外での公演や、海外劇団の招聘に取り組む事案も見られたものの、全体として、それらの活動の継承・発展の体制は脆弱なものとの指摘が得られた。特に「担い手となる若手の育成」と「新たな観劇層の開拓」が課題と考えられた。
そこで、本研究では、地域の人形劇文化を担う若手の劇団への協力を通じ、国内外への文化的発信力を強化する取組みを行った。その一つとして、飯田女子高校人形劇部による人形浄瑠璃(黒田人形)の東京公演を実現した。同人形劇部は、2019年10月に台湾で開催される人形劇フェスティバル「雲林国際偶戯節」に招聘され、公演を行う予定である。本研究期間終了後も、同人形劇部の国際的発信力を高める取組に引き続き協力する予定である。
4. 残された課題
本研究は概ね順調に進み、成果を挙げるに至った。なお、中間報告(2019年2月)において、成果を地域文化活動へ具体的に還元する方法について問われ、飯田市の地域文化として息づく人形浄瑠璃の国際的発信力を高めることや、いいだ人形劇フェスタが有望な国内外人形劇団の発掘の場となるよう、情報交換の機会を工夫することを挙げた。前者については、飯田女子高校との協力関係を軸に進め、後者については、飯田市との地域連携事業のなかで今後も継続する予定である。
2019年8月