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研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2018年度

那覇・第一牧志公設市場における組合活動と市民活動の協働に関する研究-「食べる場」「育てる場」「働く場」の継承をめぐって

東洋大学 非常勤講師
新 雅史

日本の公設小売市場は、生活物資を安定した価格で間断なく供給するという目的から、米騒動を契機に設けられた都市施設である。だが、那覇・第一牧志公設市場は、流通機能に特化した都市施設に留まらない働きをもつ。具体的には、①旧盆や清明祭などの祖先供養を食文化から支え、②多くの土地が軍用地として利用されるなか子どもの遊び場/居場所として活用され、③米軍基地や建設関連でない貴重な就労の場として機能してきた。現在、地元客の減少と急速な観光化のなかで、公設市場にあった多元的な機能が縮減しつつあるが、一方で、公設市場を地域文化の拠点に再び位置付けようという試みが盛んである。具体的には、前年度に分析した「重箱プロジェクト」であり、子どもの居場所をマチグヮー(「公設市場周辺エリア」のこと)に創ろうとするNPO「kukulu」の実践であり、公設市場の文化的価値を市民活動と連携しつつ育もうとする第一牧志公設市場の組合活動である。これらの活動が公設市場という拠点において、いかに相互連関的に生じているか。それを詳らかにするのが本年度の活動趣旨である。

また、私たちは、公設市場の歴史的転機の記録に力を注いだ。というのも、今回の助成期間(2019年6月)に第一牧志公設市場が、老朽化を理由とした建替え工事のため、現地での営業を一時閉鎖したからである(7月から仮設での営業に移行した)。

私たちは、第一牧志公設市場の建替えによって浮上した問題を整理した。

第1に、建替えをきっかけに廃業する事業者が多く出たことである。1972年当時は300以上、2017年終わりには約130の事業者がいたが、それが100近くまで減った。理由として、事業者の高齢化が背景にありつつも、移転に伴って小間の家賃が高くなること、仮設での営業に見通しがつかないことがある。第2に、事業者の数が減少しているなかで、市場の特徴をいかに引き継ぐかが課題となっていることが挙げられる。新しい公設市場では、1事業者あたりの小間をあまり広げずに、料理教室などに使える多目的スペースやイベントスペースを設けるそうだが、そのことで市場が支えた食文化を継承できるかという点が明確でない。第3に、第一牧志公設市場の建替えにあたって、アーケードの撤去が迫られていることである。周囲の事業者は、日差しや雨にさらされて商品が傷むのはもちろん、アーケードがないことで客足が激減すると考えていて、那覇市に対してアーケード再整備の支援を求めている。しかし、那覇市の規制当局は、公設市場周辺には避難に利用できる道路がないなど、国が昭和30年に定めた設置条件を満たしていないため、アーケードを再整備するのはきわめて難しいという考えを示している。

私たち研究グループは、それぞれの課題についての記録を残しつつ、それら課題をいかに解決しうるかという観点から現場に関わっている。なかでも強くコミットしているのがアーケード問題である。昭和30年に国が定めた基準は、当初は法律に近い「通達」だったが、現在は「技術的助言」に変更されていて、商店街や市場の多い大阪市や北九州市では、地域の実情に応じたアーケード基準づくりが行われている。私たち研究グループは、地元事業者と協働して、マチグヮーの実情にあった基準づくりを検討するように那覇市に陳情しており、本研究助成が地域のなかで有効に活用されている。

2019年8月

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