成果報告
2018年度
東アジア世界秩序における朝鮮の「交隣」-史的展開と現代的意味-
- 東京女子大学現代教養学部 専任講師
- 森 万佑子
1. 研究目的
本研究は2017年度に引き続き、近世から19世紀末にかけての朝鮮の対外関係を、「交隣」という観点から多角的に見直し、そこから抽出される朝鮮の政治・社会のあり方を近代東アジア秩序構造に留意しながら検討する。
2. 進捗状況
研究目的を遂行するために、朝鮮のみならず中国や日本の思想史・政治史・対外関係史・経済史の専門家5名による研究メンバーを組織した。さらに、韓国における「交隣」研究を理解し相互間の議論も必須であるため、韓国で韓国史を専門とする研究者4名にも研究協力をお願いした。そして、日本側と韓国側それぞれでの予備研究会を行った。日本側の予備研究会では、琉球を専門とするゲストスピーカーを招いた研究会も開催し、近世から近代への琉球の位相を学ぶことで、朝鮮の「交隣」について新たな研究視角からの議論も行えた。2019年7月には、第三回目の日韓合同研究会を東京で開催し、予備研究会での成果をそれぞれ報告した。
また、2年間の研究のまとめとして、10月に韓国・高麗大学校で高麗史学会主催「東アジア世界秩序における朝鮮の『交隣』についての再検討」という日韓合同シンポジウムを開催し、年内に韓国高麗史学会の『韓国史学報』で特集を組む予定である。その後は、同特集をもとにいくつかの論文を増補して日韓で書籍出版を目指す。
3. 研究で得られた知見
今年度の研究では、朝鮮時代後期、「交隣」が実践される使臣派遣の現場の様相から、1880年代朝鮮の対外関係の諸相を、制度や交渉の観点から多角的に分析し、君主号の変遷に着目しながら近世から大韓帝国に至る朝鮮の対外態度を見通した。そうした研究を通して、次のような知見を得た。それは、従来の朝鮮史研究で議論されてきた、西洋列強(近代国際関係)と接触したことで「独立国」として振る舞おうとする朝鮮外交の姿にとどまらず、近世以降の清朝との関わりの中で既に芽生えていた朝鮮の外交的立場を指摘できたことである。その立場とは、清朝が体現する「中華」秩序で「交隣」に埋め込まれた朝鮮が、自らを正統とする「中華」を志向する過程で浮上してくるものであった。その結果、そうした近世以降の清朝との関わりの中で既に生じていた朝鮮の立場に、1880年代の西洋列強との接触、換言すれば国際法秩序への理解・対応が加わることで、朝鮮外交はより一層多元化したと考えられる。
2019年8月