成果報告
2018年度
楠田實と1955年体制下の自民党政治-文化人/知識人と政治をつなぐ個人・制度・構造
- 駒澤大学法学部 教授
- 村井 良太
1.研究の目的
本研究の目的は、戦後最長を記録した佐藤栄作政権で内閣総理大臣秘書官を務め、メディア対策に止まらず、政治と知的コミュニティの結節点の役割を果たした楠田實の活動を通して、1955年体制下の自民党政治における「知と政治」を内政・外交を通じて歴史的に解明することである。
2.研究の進捗・成果・研究で得られた知見
本研究の分析の基礎には、楠田氏が残し、研究メンバーでもある和田純が所蔵する資料がある。そのうち佐藤政権期のものについては、和田純編『オンライン版楠田實資料(佐藤栄作官邸文書)』(丸善雄松堂、2016年)で刊行されている。
本研究グループは、生前の楠田氏をよく知り、自らも「21世紀日本の構想」懇談会担当室長として「知と政治」をつなぐ現場を経験した和田、関連する多くのドキュメンタリー制作を通して多くの関係者に面会してきた宮川徹志、そして、テーマに関係する日本政治外交史の中堅研究者から、沖縄返還に詳しい中島琢磨、日中関係に詳しい井上正也、首相官邸研究の村井哲也、そして政党政治に関心のある村井良太が参加し、それぞれに資料や関連文献等を読み込みつつ、メンバーの多角的で濃密な議論を重ねるスタイルで行ってきた。
2年目となる本年度も昨年同様のスタイルで研究会を進め、第6回研究会(2018年12月)、第7回研究会(2019年6月)、そして合宿研究会として第8回研究会(7月)を行った。メンバーが個々に進めている関連研究について草稿をもとに濃密で具体的なディスカッションを行い、さらに、このメンバーでの共著『佐藤政治と楠田實(仮)』の出版を計画し、すでに一部の章について草稿をもとに議論した。
本研究の焦点は、第1に結集期というべき、佐藤政権下で文化人/知識人の学識が政権の政策に取り入れられていく過程、第2に展開期と言うべき、楠田の築いた知的ネットワークが佐藤政権の後、福田政権やそれ以後にも展開していく過程、そして第3に楠田氏個人について、活動の基盤となった制度や構造にあり、いずれの点でも研究が進んだ。新たな知見を例示すれば、ブレーン集団と言われるSオペが相互にどのように結びき、また性質や課題の時期的変化が明らかになった。沖縄返還合意後の1970年が一つの鍵となっている。また、楠田を中心に佐藤栄作や福田赳夫など協働する首相の性格にも影響されている。
3.今後の課題
濃密な議論を社会と共有することが第一の課題で、個々のメンバーの成果として出て行くと考えられるが、まずは先の共著出版計画を仕上げたいと考えている。
2019年8月