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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2018年度

和紙技術・文化論の再構築をめざして:多言語による記録と伝世資料の比較検討による学際的研究

高岡法科大学法学部 准教授
本多 俊彦

1. 研究の目的

前近代の和紙について、文献の記録と紙の実物の定量観察の結果とを相互につきあわせて考証し、和紙の標準データベースとしての提示を目指す。

① 日本語・漢文(中国・朝鮮・ベトナム)・ポルトガル語・スペイン語など、多言語にわたる和紙の記録から、抄紙技術に関する記述を精確に解読する。

② 物理的測定・光学的観察により古文書原本や素性の確かな未使用古紙を定量化し、得られたデータと文献資料の内容とを比較検討する。

③ 上記の結果に基づき、構成繊維や填料などの画像データを付して和紙の紙種判定のための標準データベースを公開する。

これによって、従来の和紙技術論・文化論に再検討を迫るのみならず、古文書学や保存科学などにとっても有用な、記録媒体としての紙を総合的に捉えるための基盤にもなり得る。

2. 研究成果の概要

2017年度から取り組んできた本研究において、2018年度に行った主な研究活動は次の通り。

(1) 歴史的紙種名称と現存する古文書原本文書との科学的同定作業

① 京都大学東南アジア地域研究研究所との合同調査

京都大学東南アジア地域研究研究所所蔵の漢字・字喃経典の料紙について、同所と合同調査を実施し、紙質データの採取作業を進めた。この研究プロジェクトの成果については、同所研究チームによる海外の写本に関する研究集会(ドイツ・ハンブルク大学)で報告されて高い関心を集め、今後、さらなる研究の展開が見込まれる。

② 前近代和紙標準データベース構築に向けた古文書原本からのデータ採取

2017年度に採取した「杉原紙」や「鳥の子紙」などの料紙データに留意しながら、中世から近世にかけての文書から紙質データを採取した。

(2) 外国語資料の解読からの抄紙技術の検討

中国の製紙技術や紙の使用法に関する漢文史料を博捜し、特に紙の用途と種類の対応関係について日本と比較しながら検討を進めた。その結果、宋代以降の中国では、皇帝文書は三椏など沈丁花科、官文書や写本はクワ科、書画はクワ科もしくはニレ科、版本は竹、というように、保存する必要のあるものには樹皮紙が使用され、大量出版用には竹が使用されるという原則を導き出した。前近代の日本では舶来紙としての希少性から、竹紙を中国紙の代表のように見なす傾向があるが、中国史料中では短期間で劣化し保存に適さない竹紙の評価は低い。従来の見方に一石を投じる重要な視点を得た。

以上の研究活動の一部については、既に公表されているものもある。2017年度及び2018年度の調査で得られた紙質データは今後、まとめて公開を目指すとともに、多言語資料の解読から前近代抄紙技術の具体相にさらに迫ることを目指していく。

3. 研究成果の公表(一部)

◆小島浩之編『東アジア古文書学の構築―現状と課題―』東京大学経済学部資料室(2018年3月)

収載論文のうち、許諾の取れた論考を東京大学リポジトリ上で公開(海外からの要望に対応)

◆小島浩之「竹紙小考」『日本歴史』第843号(2018年8月)

2019年8月

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