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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2018年度

エアバスの歴史-欧州統合史として見る政府間協力からグローバル企業への脱皮-

北海道大学公共政策大学院 教授
鈴木 一人

本研究は、世界の大型航空機市場をボーイングと並んで二分するエアバスがいかにして生まれ、現在に至ったかを問う研究である。エアバスは英仏独などが一国でアメリカの航空機産業に太刀打ち出来なくなったと認識された1970年代にコンソーシアムという形態で発足し、国際市場で成功し、競争力をつけて現在ではコンソーシアムではなく単一の企業体となっている。こうした流れはよく知られているが、ではなぜ最初から単一の企業体とはならず各国企業の連携に基づくコンソーシアムという形態を取ったのか、なぜロッキードやマクドネル・ダグラスを市場から追い出し、ボーイングと世界を二分するほど成功したのか、そしてなぜコンソーシアムから単一企業体になったのか、といった問いに対する答えははっきりしていない。

エアバスの歴史に関しては、日本での研究はほとんど存在しないが、欧米ではいくつか産業政策研究や歴史研究として先行研究がなされている。しかし本研究では、エアバスに焦点を当て、それを欧州統合史の文脈の中で理解し、EUの発展とは異なる歴史を歩んできたエアバスを見ることで、「欧州統合とは何か」という問いに対する一つの答えを出せるのではないかと考えている。つまり、EUの統合ではないエアバスの歴史を見ることで、英仏独などが安全保障や産業政策の側面で各国の産業を維持しようとする一方、国際競争に勝ち抜くための手段として欧州レベルで協力しなければならないという状況をどうバランスしたのかを見ていくことで、各国にとって「欧州各国と共に行動しつつ、各国の自律性を維持する」という姿を明らかにしていく。

その際、分析の枠組みとして、「国際競争」「雇用」「安全保障」に焦点を当て、各国が何を重視し、どのようなロジックで協力を選んだのか見ていく。本研究の仮説として、外部的な環境の変化(冷戦の終焉や米国の産業政策の変化など)によって各国のロジックが変化し、それが収斂することでエアバスの形態やプロジェクトの進め方が変わるというものである。第二次大戦後から1960年代まではナショナルな産業だったものが、英コメットや英仏のコンコルドといったプロジェクトを通じて欧州協力の可能性を見いだしつつも、1960〜70年代に斜陽化する航空機産業を維持するために国内産業再編を通じて「ナショナル・チャンピオン企業」を作り、雇用を維持することを重視した。1980年代にエアバスが成功したのは米国のエアライン規制の緩和の波に乗ったが、冷戦後に米国産業が再編し、グローバルな競争が厳しくなったことで、各国の雇用や産業を守るのではなく、国際競争力をつけるためにユーロチャンピオンとしてのエアバスを設立するという姿を描く予定である。

2018年度は3回の研究会を実施し、出版に向けて研究会メンバーが担当する章のアウトラインを確定し、その出版を目指して原稿を作成する段階にある。また、6月にパリ航空ショーを視察し、国際航空機市場におけるエアバスに関する資料収集と聞き取りを行った。

2019年9月

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