成果報告
2018年度
東アジアにおける安全保障秩序の変容
- 神奈川大学法学部 教授
- 佐橋 亮
過去三十年にわたりアジアの経済成長は著しく、大規模な戦争もなく、民主化も一旦は進んだ。各国は安全保障、経済に関わる多くの問題でパートナーシップを強化し、多国間協力もASEANとAPECを基軸に推進された。冷戦後の秩序は平和と繁栄を実現するために船出し、協力が進み、自由主義が広まるはずだった。
しかし東アジアには未だ、多くの緊張の発火点があり、非伝統的な安全保障課題も多く、解決に必要な国家の能力、多国間枠組みが弱いのは歴然としている。また多くの場所で人権が問われており、最近は民主化の後退も懸念されている。中国の台頭により地域のパワーバランスは大きく変化しており、米中関係の悪化はグローバリゼーションによって加速された地域の生産分業など繁栄の基盤にも影響を与え始めている。そこで予測されているのは、平和が脅かされ、普遍的価値も浸透せず、行動の規則性も揺らいだ、安定を欠いた秩序の将来像ではないか。冷戦終結後の東アジアには秩序があったはずではなかったのか——。
本プロジェクトは、安全保障秩序の観点から過去30年にわたる東アジアの秩序形成を振り返るものである。どのような秩序が構想され、それらの構想が国際関係のなかで具現化していくときに、いかなる問題に直面したのか。そもそも、地域秩序はどこまで各国の行動に規則性を与えていたのか。勢力均衡の変化のみを理由として今、不安定になりつつあるのか。
これらの問いに答えていくため、各国の秩序認識と構想(例えば同盟や多国間枠組み、規範をどのように活用するか)を比較することを目的としている。本プロジェクトの特徴は、各事例研究において、秩序をめぐる認識と構想を明らかにするだけではなく、それが秩序に与えたインパクトを評価することを求めていることにある。
我々は、理論・地域研究をバックグラウンドに持つ研究グループを組織し、比較を試みている。従来、秩序をめぐる議論ではアメリカ、中国を中心に議論する傾向が強かったが、本研究グループには日本、韓国、ASEAN、豪州、インド、ロシアの専門家を含めており、多角的な議論が可能になっている。また米中両国も複数の専門家を充てることにより、視点を多様化させている。
研究助成期間において、研究会、研究打ち合わせ、さらに高知県立大学における研究合宿を実施し、共通するリサーチクエスチョンと構成を設定し、メンバー間での議論を深めることができた。
2018年度の成果は神奈川大学アジア研究センター紀要に2本の論文として掲載し、メンバーからの提出論文をまとめた最終報告書を2020年3月に勁草書房より刊行する予定となっている。(神奈川大学アジア研究センター出版助成を得る)
2019年8月