成果報告
2018年度
ソーシャル・ファイナンスを促進する制度的基盤に関する比較研究-東アジアにおけるエコ・システムの構築に向けて-
- 学習院大学国際センター 准教授
- 小林 立明
1. 研究の目的
従来、社会・環境課題の解決へのファイナンス手法は、政府補助金、財団助成金、および金融機関のローンが一般的だった。しかし、社会的企業やソーシャル・ベンチャーなどの新たな事業者の登場に伴い、近年、社会的インパクト投資という新たな手法が発展している。また、予防型介入を重視するソーシャル・インパクト・ボンドのような革新的な手法も発展しつつある。本研究プロジェクトは、先進諸国における20世紀型福祉国家モデルの変容と、新興国における中間層の台頭、開発途上国における開発援助手法の変化などに伴い、グローバルなレベルでファイナンス手法の革新が求められる現状を踏まえ、これをソーシャル・ファイナンスという枠組みで分析し、発展のための制度的基盤を研究者・実務者の対話を通じて探求しようという試みである。
2. 研究の進捗状況
今年度は、準備会合および全7回の公開研究会を開催した。取り上げたテーマは、「社会的インパクト投資」、「戦略的フィランソロピー」、「ベンチャー・フィランソロピー」、「ソーシャル・インパクト・ボンド」、「ローカル・ファイナンス」、「ESG投資」、「地域活性化に資する事業創造ファイナンス(自治体トークン、地域通貨、ICO)」で、各分野の最新動向を概観し、この発展に求められる制度的基盤を分析した。また、比較の観点から、英国より、欧州ベンチャー・フィランソロピー協会、アジア・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワークの双方に深く関わったロブ・ジョン博士を招聘し、公開セミナーと専門家による非公開ラウンド・テーブルを開催した。さらに、研究プロジェクトのコア・メンバーが、シンガポールで開催されたアジア・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワーク年次総会に参加し、主に韓国、台湾、香港、シンガポールにおけるソーシャル・ファイナンスのキー・プレイヤーにヒアリング調査を行なった。
3. 研究で得られた知見
グローバルな金融市場では、社会・環境的側面に配慮するサステナブル投資が急速に成長しており、このアセットクラスの一つとして社会的インパクト投資やコミュニティ投資も確実に発展している。アジアにおいても、シンガポールに拠点を置くアジア・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワークを中核に、社会的インパクト投資やベンチャー・フィランソロピーが急速に拡大しつつある。日本においても、休眠預金資金の活用が2019年度から本格化し、政府も成果連動型民間委託契約(PFS)を推進しており、今後、ソーシャル・ファイナンスが発展することが期待される。他方、この発展のためには、グローバル・ネットワークへの参加、ソーシャル・ベンチャーの発展段階に応じた支援体制の整備、政府・財団による投資リスク軽減のための資金供給、ソーシャル・リターンの設定・モニタリング・評価・報告に関する指標と手続きの標準化などの制度整備が必要である。このための政府・財団による積極的な関与が求められる。
4. 今後の課題
海外では、SDGs投資、ブロックチェーンを活用したインパクト・エコノミー、ソーシャル・バンクなどの新たな革新的手法が開発されつつある。また、クラウドファンディングを活用した多様なソーシャル・ファイナンス手法も発展している。次年度は、このような新たな動向を調査するとともに、東アジアの制度比較を目的に、国際フォーラムを開催する。
2019年8月