成果報告
2018年度
権威主義体制国家と国際協力-アジア・中東・アフリカの比較-
- 日本エネルギー経済研究所中東研究センター 研究員
- 小林 周
近年、権威主義体制国家が国際協力の新興ドナーとして台頭し、独自の国益や地域戦略に基づいた対外援助を進めている。これに伴い、欧米諸国を中心として構築されてきた自由や民主主義を重視する国際協力の理念が相対化されている。同時に、近年の中東・アフリカ地域における政治的混乱やテロリズムの台頭は、権威主義体制国家が地域の安定や国民の安全に一定の役割を果たしていた現実を露わにした。こうした中、権威主義体制に対する国際協力のあり方が再考されている。このような背景を踏まえ、本研究は複数の事例から「権威主義体制国家による国際協力」「権威主義体制国家に対する国際協力」を分析し、その現状と国際秩序に与える影響を検討した。
本プロジェクトでは定期的に研究会を開催し、研究メンバーや外部専門家によるアジア・中東・アフリカなどの諸地域、および「軍隊による国際協力」や「権威主義国家への緊急援助」、「Economic Statecraft」といったテーマでの議論を重ねた。研究成果は学術誌や専門誌に発信したほか、2019年5月のグローバル・ガバナンス学会では、パネル報告「権威主義体制国家による『国際協力』とグローバル秩序の揺らぎ」を行った。
研究を通じて、アジア・中東・アフリカなどの地域では、権威主義体制国家が国際協力において一定の役割を果たしていることが確認された。新興ドナーとして台頭する中国や中東諸国は、自国の利益の最大化を目指し、透明性、説明責任、平等性、持続性を軽視した援助や開発支援を行なっている。また、権威主義体制が国内や地域の安定に資する(とみなされる)事例が増えており、中国とパキスタン、中東とアフリカのように権威主義国家同士の連携も進んでいる。他方で、東南アジア諸国の「一帯一路」への反発や中東湾岸地域での内紛に見られるとおり、権威主義体制国家による「国際協力」が常に成功するわけではない。
今後は、枠組みの精緻化・理論化が重要課題となる。また、本研究の要点は国際協力・諸地域・安全保障を専門とする研究者による共同研究体制であり、今年度も分野横断的な議論を目指す。
2019年8月