サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 日本民謡の伝播と変容に関する学際的研究

研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2018年度

日本民謡の伝播と変容に関する学際的研究

同志社大学文化情報学部 助教
河瀬 彰宏

■研究グループの目的

本研究の目的は,日本民謡を対象としてその地域的特徴――各地域の音楽を構成する要素と相互関係――を定量化し,日本本土の民謡の特徴と比較することにより,その伝播・変遷の実態を実証的に解明することである.この目的を達成するために,音楽学者の小泉文夫氏が提唱する理念「民謡は文芸学・民俗学・音楽学の3つの側面から総合的に把握されるべきもの」(小泉1958)に即して,学際的研究に従事した.日本民謡を電子データ化することで情報学的分析基盤となる日本民謡の楽曲コーパスを構築し,これに計量的分析を実施することで,旋律的特徴(音組織)を抽出した.

■研究の進捗状況・成果

本研究課題における到達目標は次の3点であった:(1)日本全国の民謡に関する地域的特徴の関連性を実証的に解明すること;(2)地域間の音楽的特徴の差異を特徴量によって示すこと;(3)楽曲情報とその採録地域情報を相互参照可能な音楽コーパスが構築すること.

2017年度の研究グループでは,『日本民謡大観』(日本放送協会出版,1944-1980)全9巻に掲載されている楽曲の採譜地域情報のリスト化作業とデータ化を全国的規模に拡張し,情報学的分析基盤となる日本民謡の楽曲コーパスを構築した.そして,このコーパスに対して計量的分析を実施することで,旋律的特徴(音組織)を抽出した.

2018年度の研究グループでは,細かく次の3点へ分析を展開した:(a)日本民謡の楽曲コーパスを用いた地域別のリズムパターンの抽出とその比較分析を実施すること;(b)これまでに地域差の分類に係る重要な要素として着目していたテトラコルドの変化による人の印象の変化を探る心理実験を実施すること;(c)音韻の計量分析を目的とした民謡楽曲データへの歌詞入力済データの整備すること.(a)については,東日本の太鼓を用いる全楽曲に対して確率過程を用いてリズムパターンを抽出した.そして,頻出するパターンと各地域の伝統芸能・風習との関係を考察した.(b)については,日本全国に最も広く分布する種目である盆踊唄全677曲を用いて,テトラコルド(これまでに本プロジェクトで明らかにしてきた各地の旋律の差異を決定する旋律の要素)が変化した際に,人の印象がどのように変化するのかを明らかにする評価実験を実施した.(c)については,今後日本民謡の歌詞の音韻と旋律の音程の高低の関係を地域別に分析するための基盤構築を行った.

■今後の課題

本研究課題においてこれまでに実施してきた研究成果は大きくわけて次の3点である:(1)楽曲情報と採録地域情報を相互参照可能な音楽コーパスの構築;(2)東日本の各地域における旋律的特徴およびリズムパターンの地域差の検証;(3)テトラコルドの変化が人に与える印象の解明である.これまでに実施してきた地域間の比較分析に対する情報学的側面の問題点と民俗学的側面の考察を補強するために,情報学および民俗音楽学の専門家を招聘した研究会を開催し,最終的なディスカッションを経て,成果を投稿論文にまとめて刊行する予定である.

2019年8月

サントリー文化財団