成果報告
2018年度
ポスト2020に向けた持続的な文化空間の研究:関西発の文化実践
- 神戸大学大学院国際文化学研究科 准教授
- 辛島 理人
インバウンドの増加、文化庁の京都移転、大阪万博の誘致(開催)は、東京五輪以降(ポスト2020)における文化活動の中心が関西に移りうることを示している。東京五輪に関連する文化プログラムや助成事業が終了することによる「文化バブル」の崩壊が懸念されるなかで、関西が牽引すべき「ポスト2020」の文化状況とはなにか? そのような問いにこたえるべく、グローバルとローカルの連関やゲストハウス (=主に外国人旅行者を泊める簡易宿泊施設)やブックカフェといった、地域のつながりを物質的に担保する場(「文化的起業」)に注目して研究を行った。参照すべき事例を、東京ではなく、大分、鳥取、龍野、城崎、珠洲、ポーランド・クラコフやタイ・チェンマイなどとした。
大分など注目すべき事例を実際に見学すると、小規模な文化的起業は、コミュニティシネマなどの先行施設や大学・ミュージアムと有機的に連携することが成功のカギであることがわかった。各地の取り組みを参考に、研究者の集まりだけでなく、王子公園の古書店やゲストハウスを利用したイベントを行い、地域と大学の連携のあり方を模索した。また、インバウンドと観光公害、外国人労働者受入と日本語を母語としない児童の教育など、国(nation/state)を飛び越えて、ローカルとグローバルが直に遭遇(衝突)する事象が増える中で、「文化的起業」が、その二つをつなぐ場になるうることも確認された。
歴史的にみれば近代の大阪には、地域と世界をつなぐ実践が存在した。戦前から中国大陸との経済関係が深かった大阪財界には、アメリカの要求を受け入れて台湾を承認した日本政府とは異なり、敗戦後も北京政府との交流を試みようという風潮があった。国家を内破しようとする地域・都市の国際性ともいうべきものである。そういった伝統にくわえ、関西には留学生支援から開発援助まで大小の市民活動が数多くあり、在阪企業によって支えられる各国の名誉領事館も少なくない。2020年以降の大阪は、そのようなローカルとグローバルをつなぐ資源・資産を有機的に掛け合わせる「実験場」にすべきであろう。
2019年9月