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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2018年度

文化と身体の交差点としての食:文化固有性・産業化・異業種ネットワーク

北星学園大学短期大学部 専任講師
風戸 真理

(1)研究目的

本研究の目的は、食を、集団的な文化と個人的な身体の交差点に位置づけ、その連続と断絶の様相を明らかにするものである。そのため、遊牧民の自給自足な食生活から、農産物の流通・加工・産業化、そして国際ブランド化の進む実験料理に至るまでの多様性をもつ食を取り上げた。食に関わる要素としては、食べ物、食に関する行動、理念、意味づけ、感覚の5つに注目した。

(2)研究の進捗状況

研究組織は、人類学・地域研究・農業経済学・食文化などを専門とする研究者および実務家8人から成る。1年の研究期間内に、全員参加による2回の研究会にて8カ国の事例を検討し、3回の実食調査をおこなった。そして最終成果発表として、日本文化人類学会第53回研究大会で分科会を開催した。

文化と個人との関係を検討するにあたり、食は人間の生存を支える下部構造に立脚することから経済学的な視点で3つの領域を設定し、それぞれに関連する2〜3の事例研究をおこなった。

① 食べ物の自給から商品化、工業化へ(近世・近代日本の饗応儀礼食、モンゴル食文化の標準性と身体性、モンゴル乳製品の取引慣行)

② 主要な流通システムと個別性(北海道の生産者と食べる人の交流、1900-1929年メキシコシティの外食状況)

③ トランスカルチュラル状況における食文化(中国のエスニックツーリズムと民族料理、ペルーのモダンガストロノミーの歴史と評価、日本でのハラール肉とザビーハ屠畜)

他方の実食調査では、研究者自身が共食の場に参与し、他のメンバーが研究対象とする食文化を味わって体感した。そして自身の食べた物・行動・理念・意味づけ・感覚を、事後のアンケートやグループインタビューを通して言語化ないしは共有した。

(3)得られた知見

3つの領域での議論からは、調理する、販売する、味わう、饗応するといった「食べる」ことを切り口とした経済のグローカル化の諸相が明らかになった。同時に、食に関する諸実践は共同性・エスニシティ・ナショナリズムなど集団の境界と深く結びついていることが示唆された。身体性は本研究で新規に着手したテーマであるが、実食調査からは、日本で生まれ育ち、類似した職業に就いていても、食を受けとめる身体的な感覚基盤には差異が大きいことがわかった。

(4)今後の課題

本研究の成果は、日本文化人類学会誌の特集その他に掲載する論文、産業界や地域での講演活動、大学での教育等に発展的に還元していく予定である。とくに身体性については、調査者の感覚の相対性に留意しつつ、味覚の個別性と標準性の解明に向かって新たに研究を進めていきたい。

2019年8月

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