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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2018年度

現代インド民主主義の持続性に関する学際的研究:司法積極主義と社会運動の観点から

東洋大学法学部 准教授
上田 知亮

本研究の目的は、現代インドの民主主義体制の持続可能性を支える要因が、議会制民主主義を補完する重要な役割を社会運動と司法機関が果たしている点にあることを学際的な臨地調査によって明らかにすることである。

インドは旧植民地諸国のなかで民主主義の定着に成功した数少ない国の1つであることから、政治学の重要な研究対象となってきた。だが従来の研究は、その成功要因を選挙制度や政党政治、連邦制、政軍関係に求めてきた。ここには2つの瑕疵がみられる。

第1は、先進民主主義諸国と同様に、インドの政治体制が単なる民主主義ではなく、自由主義と民主主義が接合された自由民主主義であることが等閑視されている。そのため、立憲主義や司法積極主義、人権といった観点からインドの民主制が研究されることは稀である。

第2に、人々が下から展開する社会運動が意見集約と利益表出のルートとして機能し、民主主義を活性化する役割を果たしていることが看過されてきた。議会制民主主義の政治過程では見捨てられがちなマイノリティの権利要求運動をミクロな視点から分析することが必要である。

本研究ではこうした問題点を克服すべく、司法機関と社会運動に着目して、現代インド民主主義の持続性について、政治学や人類学、社会学、社会運動論など多様な研究分野のインド研究者8名を結集して共同研究を進めた。とりわけ重点的に行なったのは、現代インドの社会運動に関する現地調査で、デリーやムンバイといった大都市のほか、マニプル州、アッサム州、パンジャーブ州、ラージャスターン州などでフィールドワークを実施した。

こうした臨地調査を中心とした共同研究を通じて、公益訴訟(PIL)を活用したマイノリティの社会運動や、マイノリティの権利保障に関わる重要な司法判決などの詳細について理解を深めるとともに、現代インドの民主主義の動態を新たな視点から分析することが可能となった。その基盤的な研究成果は、本研究メンバー8名の論文からなるTatsuya Yamamoto and Tomoaki Ueda (eds.), Law and Democracy in Contemporary India: Constitution, Contact Zone, and Performing Rights (Palgrave Macmillan, 2019) として発表した。さらにそれを発展させるとともに、本研究課題の分析視点について国際的なフィードバックを得るべく、2019年7月にライデン大学(オランダ)で開催されたThe 11th International Convention of Asia Scholars (ICAS11) において2つのパネルを企画して研究報告を行った。

今後の課題としては、各研究事例において社会運動と司法積極主義の相互作用を一層厳密に分析していくことが必要である。この点を解決したうえで、その成果を英語論文集として海外出版社から出版することを目指して、本研究メンバーを中心に継続的に研究を進めている。

2019年8月

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