成果報告
2018年度
インド太平洋地域におけるインフラ開発と秩序形成に関する学際的研究-日印研究者グループによるチャーバハール港とグワーダル港の比較調査を通じて-
- お茶の水女子大学グローバル協力センター 特任講師
- 青木 健太
●研究の目的:本共同研究プロジェクトの目的は、中国が「一帯一路」構想の実現に向けてグワーダル港(パキスタン)に租借権を得て開発を進める一方、2016年5月、インド、イラン、アフガニスタンがチャーバハール港(イラン)の開発を進めることに合意した状況を踏まえて、①インド、イラン、アフガニスタンの3ヶ国がチャーバハール港開発で協力する背景と狙い、②こうした各国のインフラ開発に向けた動きがインド太平洋の秩序形成に対して与える影響、③同分野における日印協力の可能性、について明らかにすることである。第2年次となる本年度は主にグワーダル港に焦点を当てた。
●研究の方法:パキスタンで現地調査を実施し、関係国政府・ビジネス関係者等への聴き取り調査によりデータを取得し分析する。また、第1年次に調査を完了したチャーバハール港との比較研究を行う。
●研究の進捗状況:2019年3月にパキスタンで現地調査を実施し、パキスタン人経済学者・新聞記者、在カラチ・アフガニスタン総領事、在カラチ日本総領事館、JETROカラチ事務所等を訪問し、関係者との意見交換をするなど、本プロジェクトの要となる調査部分について大きな進捗が見られた。但し、パキスタン当局からNOC(Non-Objection Certificate)が発給されず現地調査は実施できなかったため、カラチ港において有識者から聴き取り調査を行った。また、2018年12月、インド・シンクタンクIDSAと国際交流基金が共催する国際会議に於いてこれまでの研究成果の対外発表を行うとともに、有識者との意見交換を行い、インド側の見方について情報収集を行った。総じて、チャーバハール港の研究成果発表、及び、グワーダル港調査の実施において大きな進捗が見られた。
また、これらの研究成果については、『国際安全保障』(2018年12月)、『現代インド・フォーラム』(2018年10月)等にて順次出版した。
●研究で得られた知見:現地調査の結果、グワーダル港開発には、カラチ港を凌ぐ程の経済的優位性が確認されないこと、同港の基礎インフラが脆弱である・中パ国境のホンジュラフ峠が冬季に閉鎖される等の「実現可能性」に疑義があること等から、商業港として機能するには多くの課題が存在することが指摘された。パキスタン当局が中国からの訪問者以外を積極的に受け入れていない事実もある。一方で、チャーバハール港を支援するインドへの牽制という意味合いや、有事におけるカラチ港の代替輸送ルートとしては意義が高い。このため、グワーダル港開発の背景には戦略的理由の存在が強く看取される。
また、チャーバハール港とグワーダル港の2点だけで考えるのではなくインド洋西海域全体を俯瞰し、モンスーンを介してインド洋西海域で育まれた交易の構造や機能が「インド太平洋」時代の外交・安全保障面にどのような含意を持つのかを検討する必要性が明らかになった。
●今後の課題:今後、グワーダル港調査の研究成果発表を行うとともに、過去2年間の比較調査を通じた研究成果について、最終成果発表会、及び、最終報告書刊行により対外的に発信を行う計画である。
2019年8月