成果報告
2017年度
空間経済史学の構築:江戸―東京の内部構造変化の分析
- 神戸大学大学院経済学研究科 特命助教
- 山﨑 潤一
研究の目的
本研究は、東京の都市構造を前近代から遡ってデータ化し分析することで、経済地理と歴史の関係を総合的に考察するものである。近代以前以後で同一都市の発展を継続的に分析可能なデータセットの作成は世界初であり、都市の歴史を考える上で非常に意義深い。またそれにより、世界でも有数の都市である東京が土地利用の高度化や災害・空襲からの復興に際してどのような阻害要因を抱えていたかを分析することができ、都市における集積が重要な現代経済において政策的な含意を得ることも出来る。具体的な阻害要因の仮説としては、土地利用の細分化を考えている。例えば江戸期に大名屋敷があった地点においては、明治期土地区画の設定の際に大きな筆の設定がされ、大土地所有が継続してなされている可能性が高い。そうした地域では、土地利用の高度化などに伴って一体開発が重要になった場合、複数の地主がいるケースに比べ開発が容易で、高度土地利用の促進や地価の上昇があると考えられる。こうした細分化の開発への影響は、農地に関しては既に実証研究があるが、より地価が高く実務レベルでも問題と認識されているはずの都市を題材にした実証研究がほとんどなく、その点に関しても世界初の研究になることが期待されている。また、変化がめまぐるしく開発の圧力が強い戦後東京のような都市では、歴史的な経路に関わらず常に高層ビルなどを立てて効率的な土地利用をしようとするはずである。そうした地域で特段経済的に優位とは言えない大名屋敷という150年前の土地利用特性が目に見える形で影響を与えているとすれば、経済学的また歴史的にも興味深い結果となる。
研究の手法
現時点での成果
既に江戸末期の大名屋敷の分布と、明治初期における地籍図の電子化、また現代の土地利用や建物の高さ、地価といったデータの構築は完了した。それらを分析した結果、大名屋敷があった地域では、明治初期において筆数が少なく、また現代において地価が高い、建物の高さが高い、また建物の数が少ないといった結果が得られている(次図参照。大名屋敷割合の値から20のグループに分けて地価と建物階数の平均値、またその線形な関係を図示している)。またこれらの分析が本当に大名屋敷の影響によるものか検証をするために、地理的性質が似ているはずの隣り合った地域のみでの比較や、回帰不連続デザインと呼ばれるより洗練された推計方法を用いたが、質的な結果は頑健であった。
今後の検討課題
すでに大名屋敷の長期影響は確認されたが、そのメカニズムを考察していく必要がある。特に、影響が高層ビルの建築に伴うものなのか、それともそれ以前から始まっていたかなどを考察するために、明治と現代の二時点のみのデータセットを補完する形で、明治後期の地価や第二次大戦直後の華族の所有家屋が判明するデータセットを構築、分析していく予定である。
2019年5月
※現職:神戸大学大学院経済学研究科 助教