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研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2017年度

現代日本の高校生を主体とした地域創造事業の成果に関する実践研究~KOKO塾まなびの郷の成果を活用した共生の社会づくりへの挑戦~

和歌山大学クロスカル教育機構 教授
村田 和子

1.研究概要

本研究で、成果の活用をはかるKOKÔ塾まなびの郷は、1981年の試行から、17年を迎えている高校・大学・地域の連携事業である。我々は、地域における文化活動当事者へのインタビュー調査の結果、KOKÔ塾の「高校生カフェ」等の活動拠点である「山崎邸」の存在と機能が、地域文化活動の展開に重要な役割を果たしてきたという知見を得た。「山﨑邸」は、日常的には社会福祉法人一麦会麦の郷が管理運営し、和歌山県のひきこもり青年の社会参加センターという性格を有し、「創カフェ」という働く場となっている。一方、KOKÔ塾にもシェアされ、「高校生カフェ」という事業が生みだされている。さらに、「高校生カフェ」において、「創カフェ」の青年たちは、KOKÔ塾の高校生たちの支え、援助者としても存在している。すなわち、支援される・支援するという関係は、常態化・固定化しているのではなく、ときには、逆転現象を起こし、カフェを通した、新たな人間関係の紡ぎ直しともいえる関係性が生じている。こうした関係性の創出は、山﨑邸を拠点とした共生社会への萌芽をみることができるのではないか。そこで、本研究では、第一に、「山﨑邸」という拠点が、人の育ちあいにとってどのような機能を有しているのか。また、キーパーソンとなる人たちによって、何がどのようにつくりだされているのかについて考察するとともに、高校生・大学生・創カフェの青年たちの参画と協同による新たな地域文化活動を作り出すという行為を通して研究する。

以上のプロセスの記録化を図り、成果と課題を明らかにすることが、共生の社会づくりに貢献できると考えた。併せて、現代日本の地域社会と高校生をめぐる相互の関係性に着目し、その背景や先行事例を検討することを目的とした。

2.研究方法

①高校生・大学生・「創カフェ」の青年たちによる旧粉河町地域住民へのインタビュー調査及びワークショップの開催。「おとなの学びプロジェクト」として企画実施。「山崎邸」を活かした新たな地域交流モデル事業の開発と実施、ワークショップを通したモデル事業の分析)

②高校を核とした地域コミュニティのネットワーク形成に関する調査(国内事例検討:宮崎県宮崎市、岡山県立林野高校)

3.得られた知見、成果

①モデル事例を通して、高校生という三人称から固有名詞で呼び合える関係性がつむぎ直されていくなかで、「初めて地域のことを考えた(創カフェの青年たち)」が登場した。
そこには、高校生・大学生の自主的な参加のプロセスが徹底されて、重んじられたことも影響している。

②地域拠点の山﨑邸の役割においては、地域の困りごと発見所、人と活動をつなぐノット・ワーク(結び目)機能を有している。高校生が地域とながる拠点ともなっている。現代の高校生にとっては、自分の責任で、自由に活動(表現)できる場が、自主性を育んでいる。

③高校と地域社会との相関関係についてである。
第一に、現代日本社会においては、政策的文脈(「地方創生」、「人口減少社会」に歯止めをかけるにおいて、次世代の担い手としての高校生が着目されている。それは、文部科学省の「高校魅力化事業」(島根県隠岐島前高校)や、高校生SBP(Social Business Project)、例えば三重県立相可高等学校食物調理科が運営する高校生レストラン「まごの店」、宮崎市「高校生商店街」等の先行事例にも表れている。第二に、総合的な学習の時間を活用した地域連携教育を推進する動きも岡山県立林野高校のMDPにみられるように、学校教育(定型的教育モデル)の機能強化という形で進められている。第三に、地域で高校生、青年たちを育てる視座が提起された非定型教育モデルが開発されている。ここにKOKÔ塾まなびの郷事例を位置付けることができる。

以上の研究成果を公表する機会として「ジョイントフォーラム」の開催及び成果物として、パンフレットの作成・発行を行った。簡易なパンフレットという「見せる化」によって、「高校生も親しみ、地域社会への理解を促し、研究者にも活用しうる形」を実現した。

2018年8月

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