成果報告
2017年度
秋田県北の伝統的な祭りにおけるクラウド・ファンディングの活用に関する研究
- 秋田大学教育文化学部 准教授
- 萩原 史朗
1. 研究の成果または進捗状況,および,研究で得られた知見
近年,人口減少や地方財政の逼迫に伴う自治体からの助成金の縮小・廃止に起因して,多くの地域で,祭りに代表される伝統的な文化活動の継承が困難となってきている.本研究では,そうした地域課題に対し,「葛黒火まつりかまくら」(秋田県北秋田市)と「能代七夕天空の不夜城」(秋田県能代市)を主な対象として,アンケート調査,ヒアリング調査,および,文献調査を中心に,伝統的な祭りの継承におけるクラウドファンディングの活用の有効性と課題を明らかにしようと試みた.
本研究の主な成果と研究で得られた知見は,以下の3つである.第1に,ヒアリング調査により,上記の2つの祭りでは,祭りの新たな運営資金や追加的な環境整備のためにクラウドファンディングを活用したことが明らかとなった.このことは,祇園祭や天神祭等の都市型の大規模な祭りであれ,地域型の中小規模の祭りであれ,近年,運営資金の調達を目的としてクラウドファンディングが活用される傾向が高いことと同様である.また,特に,地域型の祭りでは,単に運営資金の調達のためだけでなく広告の役割への期待が大きいが,上記の2つの祭りでも同様であった.
第2に,アンケート調査とヒアリング調査により,クラウドファンディングの活用により地元企業や住民からの田楽広告料・協賛金・寄付金が減少する「クラウディング・アウト効果」が働く傾向が高いことを明らかにした.特に,能代七夕天空の不夜城では,2017年には,約1,179万円の田楽広告・協賛収入があり,(1)上述のクラウディング・アウト効果を懸念したことと(2)田楽広告・協賛への御礼の品とクラウドファンディングの返礼品の兼ね合いから,2018年にはクラウドファンディングによる資金調達を行わなかったとのことであった.
第3に,アンケート調査により,葛黒火まつりかまくらへのクラウドファンディングによる支援の動機が「純粋な利他性」に基づく可能性が高いことを明らかにした.特に,純粋な利他性の中でも「共感」に基づく支援の割合が高く,共感に基づく支援の動機と高額の支援金の相関も高い.他方で,FAAVO秋田の担当者へのヒアリング調査から,支援金総額の約1/3がFAAVO秋田を運営する秋田県信用組合の職員の購入によるものであり,今後,クラウドファンディングの活用による持続的な祭りの運営のためには,関係者以外から多くの支援を募る必要があることも明らかとなった.
2. 今後の課題
第1に,アンケート調査に関して相関関係の分析までしか行うことができなかったが,今後は,計量的な分析により因果関係を明らかにする必要がある.第2に,さらに深みのある分析を行うためには,各々の祭りの文化的・歴史的な背景を鑑みたより学際的な研究を行う必要がある.以上の2点に関しては,今後の研究によりさらなる検討を重ね,近い将来,成果を公表したい.
2018年8月