サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 第二次世界大戦後の国際海洋秩序の展開に関する学際的研究

研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2017年度

第二次世界大戦後の国際海洋秩序の展開に関する学際的研究

奈良大学文学部 准教授
山口 育人

本研究は、20世紀の国際海洋秩序が、「帝国的海洋秩序」(「狭い」領海+「広い」公海の軍事的・通商的自由(イギリス帝国・覇権国アメリカの利益)を優先)から、「海の主権国家化」(沿岸国の経済的・政治的・環境的・文化的利益を優先)という方向性でもって展開したことを、実証的・学際的に検討することを課題に共同研究を進めてきた。本年度は、研究代表者・分担者の個別報告ならびに国内外の外部研究者の助言を得る5回の研究会を開催した。これにより、20世紀国際海洋秩序の展開を、グローバルな政治的・経済的文脈のなかで理解するにあたっての重要な視角がいくつか浮かび上がってきた。

研究代表者・分担者5名の研究分担は次のとおりである。山口育人(第3次国連海洋法会議の分析)、新井京(1960年代末のローデシア制裁のためのベイラ・パトロール)、池田亮(スエズ動乱(56年)後の運河処理・国際管理問題の再検討)、喜多康夫(戦間期イギリス帝国内部における「帝国的海洋秩序」維持の試みと瓦解について)、佐藤尚平(イギリスの撤退(70年代初頭)がペルシャ湾の国際海洋秩序にもたらした影響)。

以上の5名の研究を総合的に検討するなかで、20世紀国際海洋秩序の展開を考えるにあたって、以下、三つの視角の重要性を指摘できると考えるに至った。

  • ① 国際法や国際機関が英米のヘゲモニー支配を補完した側面に注目する視角。
  • ②「海の主権国家化」への流れを体現した国際海洋法の発展過程を、脱植民地化後の政治・経済両面におけるグローバル・ガバナンスへの異議申し立ての文脈でみる視角。
  • ③「帝国的海洋秩序」から「海の主権国家化」という展開は、必ずしも一方向のものではなく、「場としての公共的海洋秩序」(海洋の軍事的・通商的自由を柱とする)と「資源(鉱物・漁業・環境)としての排他的海洋秩序」(主権国家による「陸」の秩序が反映)という二重構造を20世紀を通して抱えながら展開したという視角。

共同研究の今後の課題として、次の二点を挙げたい。

  • (1) 国際海洋秩序の行方として、「米中のG1/G2体制のもとでの「帝国的海洋秩序」への回帰」、「Gゼロという秩序の不在」、「Gプラスとも呼ばれる国際共通利益(コモンズ)の場としての海洋」という三つの可能性が挙げられている。次年度以降は、20世紀国際海洋秩序の展開に関する本研究の知見をさらに精緻化するとともに、この知見を踏まえることで、21世紀海洋秩序が持つこれら三つの可能性について、それぞれの歴史的位相を理解することを目指したい。
  • (2) 国際関係論・国際法学・歴史学の研究者からなる学際的・国際共同研究によって「海洋の自由」の歴史的展開(19~21世紀)について包括的に検討するための研究基盤構築を図りたい。具体的には、科研プロジェクト採択を目指し、またイギリスの出版社に論集プロポーザルを行う。すでにそのための海外研究者からの協力の内諾があり、また研究分担についても大枠を決めつつある。

2018年8月

サントリー文化財団