成果報告
人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成
2017年度
東アジア世界秩序における朝鮮の「交隣」-史的展開と現代的意味-
- 京都府立大学 日本学術振興会特別研究員(PD)
- 森 万佑子
1. 研究目的
「交隣」とは、19 世紀後半を中心に朝鮮が中国以外の国々ととりむすんだ関係を意味するが、東アジア近現代史研究においては閑却されてきた概念といえる。朝鮮「外交」などの表現がその最たる例で、現代の「外交」からみて一義的には「外交」といえるものの、近世から19 世紀末にかけて展開した朝鮮の対外関係は、中国との「事大」とそれ以外の国々との「交隣」から成っていた。そのため、この間の朝鮮の対外関係を「交隣」という観点から多角的に見直し、そこから抽出される朝鮮の政治・社会のあり方を指摘することは、東アジアの国際秩序構造を理解する上でも必須の作業である。
2. 進捗状況
研究目的を遂行するために、朝鮮のみならず中国や日本の思想史・政治史・対外関係史・経済史の専門家5 名に共同研究を依頼した。さらに、韓国における「交隣」研究を理解し相互間の議論も必須であるため、韓国で韓国史を専門とする研究者5 名にも研究協力をお願いした。そして、日本側(2017 年11 月、2018 年3 月)と韓国側(2018 年1 月、2 月)それぞれでの予備研究会を経て、2018 年4 月にソウルで、7 月に東京で日韓合同シンポジウムを二度開催した。シンポジウムでは、研究代表者・共同研究者および韓国側研究協力者全員が報告した他、日朝外交史と中国思想史を専門とするゲストスピーカー2 名も招いて活発な討論の場を持った。
3. 研究で得られた知見
上のような研究活動を通して、「交隣」について多角的に議論を深める過程で、次のような知見や論点が得られた。
- ・「交隣」という漢語は、主に朝鮮で用いられた一方通行的な概念である可能性
- ・日本との「交隣」はのちに欧米諸国との関係をも抱き合わせるものへと重層化し、国内制度にも及ぶほど「交隣」概念が拡大
- ・「交隣」と「人臣無外交」の関係、その解明のための「人臣無外交」の原則・建前と、実際に行われた交渉についての整理
- ・「交隣」概念の広がりおよび終焉が、東アジア域内での経済システムにおける公権力の作用変化とどのように連結するのか
- ・「交隣」とは政治なのか、経済システムにおける関係なのか
- ・「交隣」の帰結は高宗の皇帝即位といえるため、皇帝即位がもつ東洋的・西洋的意味の検討
2018年8月